異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 30
薔薇の塔12層【グッドラック】。
メリアローザの歴史から見て、かなり初期の段階から存在した12層は当時、武器や魔法が未成熟だったこともあり、強大なモンスターを相手に半死半生の戦果が一般的だった。
ゆえに、【幸運を祈る】と呼ばれた。反面、手に入る食肉や毛皮、武具に使用されるアイテム、現地でしか調達できない特殊な鉱石が集まっており、今でも人気の階層として知られる。
ゲートを通って出た場所にいきなりそれはあった。巨大な大木が二つ倒れ、隣には何かがぶつかったであろう傷を持つ大木がそびえたつ。
ヘレナちゃんが前へ出て、傷を指さした。
「これがキックバックラビットの後ろ蹴りの痕跡です。一般的にゲートから出ていきなりモンスターと遭遇することはないんですが、この階層だけすぐにキックバックラビットとでくわす可能性があります。まぁ、彼らは好戦的というわけではないので、目が合った瞬間に襲ってくるってことはありませんが」
「これをなぎ倒したのがキックバックラビットってやつか。見てみたいけど近づきたくはないなあ」
「私はもふみふしてみたいです。ふわふわきゃっとももふりたい」
「そ、それは……」
難しい、とヘレナちゃんが言おうとして、虎丞がふわふわきゃっとの特徴を教えてくれる。
「ふわふわきゃっとは単体だとたいした風魔法は使えないが、集団だと大の人間一人を空へ巻き上げて叩き落とすくらいはしてくるぞ。以前、それでトライバイソンが空まで吹っ飛ばされたところを見たことがある」
「空へ巻き上げて叩き落とす……。名前に反して一切の容赦がないな」
「あいつらも命賭けだから。まぁ、ふわふわきゃっとは雑食なせいか、肉は旨くないから…………あっ!」
「食ったんですかッ!?」
シェリーちゃんブチ切れ。
彼女だって分別のある大人。メリアローザで討伐したモンスターは食肉が前提。ともすれば、とりあえず食べてみるのが当然。だから彼女は爆発寸前の感情を押し殺して黙る。目にたっぷりの涙を溜め、両親と祖父母の仇を見るような憎しみを込めた眼光で虎丞を睨んだ。
虎丞も分別のある大人。彼女の感情を察してしまったという表情を浮かべる。しかし、彼は冒険者。討伐したモンスターはとりあえず食べてみる。それが生きるということであり、供養でもあるからだ。
どうしようもない感情はシーサーペントにぶつけよう。
そう諭して目的地を目指す。




