異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 25
病院の一階には入院患者が集まるコミュニケーションルームがある。誰も患者がいないので、恐ろしいほど殺風景だけど。
まぁ、逆を言えばそれだけメリアローザの人々は健康に気を遣い、健全な生活が送れているということだ。というか、生きるために仕事をしなければならない環境にある彼らは、ケガや病気になってる暇などない。
それ以上に、誰も病院に近づきたくない。それゆえに、国民の健康意識が高い。看護師をはじめとした医療スタッフの功績だった。彼女たちは献身的に、定期的に病気の予防方法や対処法についてレクチャーする。同時に、彼女たちの変態的趣向の餌食になるまいと、全国民が病気にならないように努めるのだ。
二つの意味で、彼女たちの功績である。
と、ローザさんが自慢げに鼻を鳴らした。のだが、後者は誇っていいことだろうか。
私は己の内に巻きあがるつっこみから目をそらし、目の前にある現実に向き合う。
気まぐれ楽団による演奏会が始まるのです。
団長はバニラのフェアリーこと、我らがバーニア。
バーニアの気分次第で開催される気まぐれな演奏会。演奏に参加するもよし。聞くだけでもよし。踊ってよし。歌ってよしの四拍子。
今日はネイサン女医がピアノ。バーニアがトランペットを披露してくれる。私たちは演奏ができないので、手拍子させてもらおうと思います。
「バーニアはトランペットが吹けるんだ。すごいねっ!」
ローザさんが褒めると、バーニアは弾けんばかりの満面の笑みを見せてくれた。
「そうなのっ! トランペットはパッパラパッパッパーって、すっごく楽しいんだよっ! ローザはなにか楽器は演奏できる?」
「ごめんね。わたしは楽器って使ったことないの。ボランティアでハンドベルの演奏はしたことあるけど」
「ハンドベル! だったらこれが使えるかも」
そう言ってライブラから取り出したのはカスタネット。
カスタネットて!
たしかにそれなら演奏できるかもだけど!
いや、いやいや。相手が人間なら煽ってる可能性大。だけど彼女はフェアリー。純粋に一緒に演奏してほしいだけ。悪意はない。悪意は0パーセントなのだ。
「わっ! 懐かしい……。それじゃ、これ貸してもらうね。一緒に演奏しよう!」
「うんっ! はっ! ほかのみんなの分のカスタネットがない。どうしよう……」
仲間外れはよくないと知る彼女は戸惑う。
でも大丈夫。私たちには手拍子がある。
「大丈夫だよ。私たちは手拍子で一緒に楽しむね。バーニアたちと一緒に演奏できて嬉しいな!」
「ほんとにっ!? バーニアも嬉しいっ!」




