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Oh! なんと楽しい日和かな 5

 陽も傾き始めた頃、さすがに我々の集中力も切れてきたところでお開きとあいなりました。

 お邪魔するのに手ぶらではバツが悪いと思い、駄菓子をいっぱい持って来たお返しにと、ヤヤちゃんから帰り際にお土産を貰ってしまった。


 中身はなんと蛇の蒲焼き。甘辛香ばしいタレを身にまとったそれはなんと蛇の蒲焼き。蛇の蒲焼き。蛇って食べられるのね。

 Oh……と呟いて後ずさりする我々とは反対に、ヤヤちゃんはキラキラした目でテンションを爆上がりにして迫ってくる。

 曰く、これを貰ったリン・メイリンと言う女性とは仲良し。よく昆虫食を楽しむ間柄だそう。遠い地に赴いた彼女の健康と幸運を祈って贈られた逸品ということ。

 本当に楽しそうに語る彼女はリンという人物を心の底から尊敬していることが伺える。大人しく冷静なイメージとは裏腹に、大好きなことに関して饒舌になるところはグレンツェンの人って感じ。

 ペーシェもユカもそんな感じ。

 きっとボクもそんな感じ。


 これを持ち帰ってペーシェに食べさせたらどんな顔をするだろう。

 おいしいと言いながら吐き戻してしまうだろうか。ちょっと楽しみだ。

 ただいまを言って、おかえりを返すペーシェに今日の顛末を聞かれて気付いた。

 たった半日の中で語りつくせないほどの驚きと輝きがあったことを。


「――――とまぁそんな感じで色々とあったわけ。ハティさんには驚かされてばっかりなんだな」


 さすがのペーシェも失笑を禁じ得ない。

 呆れ半分。面白そうな場面に居合わせなかった残念感が半分といった複雑な顔を見せた。


「マジかー。マルコ(愚弟)がグレンツェンにいなければ外を出歩けるのに、本当にどうしようもないクソ野郎だよ」

「まぁそう言ってやんなさんなや。取り巻きの女の子たちを見る限り、ベルンではモテモテみたいじゃん」

「いやぁ~~~~。あの皮の厚いペルソナに騙されてるだけなんじゃないかと思うと、姉としては恥ずかしい限りだよ。おぉ怖っ!」


 両手を頬に添えて身を縮こませる彼女の態度と言葉の抑揚が一致してない。

 心底どうでもいいって思ってやがる。


「確かに本性は隠してるだろうけど、誠実にやってると思うよ、ボクは。で、このお肉どう? いい匂いでしょ」

「これって倭風タレってやつでしょ? すみれに教えてもらったの?」

「ううん。これ全部貰い物。ハティさんの面倒とお菓子をくれたお礼にって、わざわざね。とにかく食べてみてよ」


 と、勧めながらとにかくペーシェに食べさせてみる。ヤヤちゃんの料理は見てくれや使う食材がカオスなだけで、味は絶品と聞いた。だけどさすがに蛇の肉ってどうなんだろう。

 ヤヤちゃんが言うにはさっぱりした味わいで旨味の強い食材だと言う。食感は弾力があり、ほっけの開きの如くらしい。

 ペーシェはすみれの手作り料理だと具合よく勘違いした。これが蛇肉だなんて思いもせずに口へ運ぶ。倭国料理に出てくるウナギの蒲焼きだと思ったらしい。

 おめでたいやつなんだな。


「あれ、てっきり白身魚だと思ってたんだけど、もしかして鶏肉? でもおいしいね。そういえば何のお肉だっけ。ん、冷めるうちに食べないともったいないよ」

「毒味、ご苦労なんだな」

「貴様……ッ! さっき、ハティさんの面倒とお菓子のお礼って言ってたな。お菓子、ということは、これはすみれの手料理じゃなくて――――ヤヤちゃんのか!」

「ご明察。うまっ。噂通り絶品なんだな♪」

「おいしいけどさ、てめぇよくもやりやがったな。これ何の肉なのよ」

「蛇」

「…………蛇?」


 うまっうまっ。お、いいきょとん顔をしてるじゃないか。普段は人を食うようなことを言う腹黒ガールが蛇に睨まれて固まってるぞ。これはなかなか良い肴。


「なるほど、これが蛇肉の蒲焼か。意外においしい。爬虫類系の料理ってスープが多いって聞くけど、ヤヤちゃんはレパートリーがあるのかな」

「おや、もしやそっちに興味アリ? ちなみにボクは興味アリ」


 これにはペーシェも諦め100%の顔をした。スープの中身をぐりぐりとかき混ぜて遠い目をする。

 その気持ち、すっげえよく分かるわ。


「いやぁ、すみれやハティさんと出会ってから刺激的な生活を送るようになって、人生は大概なんでもアリだなぁって思い始めてさ。スパルタコの変顔を見ようとタコを食べてみせたあたりからかな。感動はあってもドン引きすることはなくなったかも」


 そういえばそんなことあったな。


「それは痛烈に同感なんだな。グレンツェンにいると異文化コミュニケーションの機会が多いって実感するけど、彼女たちと知り合ってどんどん人生が濃密になっていくのを感じる」

「でも超楽しい!」

「だから超楽しい!」


 やっぱり似た者同士と言いますか、自称腹違いの双子で囲む食事はおいしいんだな。

 今日も月の光の照らし出されるがままに義双子(ふたご)は笑う。

 なんて素晴らしい出会いだろう。

 なんて素晴らしい人生だろう。

 あぁ、願わくばこんな日々が永遠(とわ)に続かんことを祈るばかりなんだなっ♪




~~~おまけ小話『チャレンジスピリッツ』~~~


ヤヤ「ソーセージに牛1頭、まるまる詰め込んでみましたっ!」


ルーィヒ「いきなりどうしたんだなっ!?」


ペーシェ「え、なに? 牛1頭を丸々ウッドチッパーにでも詰めたの?」


ユカ「怖っ! 発想が酷い! ペーシェの!」


ヤヤ「違います。サイズは普通のソーセージです。腸詰の内容量と牛さんのお肉の各部位の重量を計算して、全ての部位を少しずつ詰めてちっちゃな牛さんソーセージにしてみました」


ルーィヒ「発想が自由かつ柔軟でエクセレントなんだな!」


ペーシェ「発想にいたるのもすごいけど、それを行動に移しちゃうヤヤちゃん、尊敬するわ」


ヤヤ「骨を入れるとじゃりじゃりになりそうだったので、そこは牛骨スープを入れてます」


ユカ「普通においしそうね」


アルマ「無論、モツも入ってます!」


ペーシェ「あ、うん。それはなんか知ってたよ」


すみれ「ちゃんと血も入ってます!」


ユカ「それはわざわざ入れなくてもよかったんじゃない?」


ヤヤ「全てを内包してこそ意味があるのです。そしてたいへんおいしゅうございましたっ!」


ルーィヒ「それはよかったんだなー♪」

ハティは無事に語学を習得するための手段を手に入れました。彼女たちと出会ってなかったらどうしてたんでしょうね。まぁ彼女の場合は文字を覚える前に覚えないといけないことがたくさんありますけどね。


次回は、妹キャラのガレットがお姉さんになる話しです。

キッチン・グレンツェッタの中で最年少のガレットは妹キャラが定着しました。姉もいるので、妹キャラを自覚しています。だからこそ、より妹キャラ力の強いキキに抱きつかれて有頂天です。

彼女はキキに対して姉っぽいことができるでしょうか?

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