異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 20
案内されたのは手術室。『交渉』って言ったけど、問答無用の施術らしい。
扉を開くと手術台に女性が横たわっている。小柄な少女。歳は私に近い。血を抜かれたせいで顔色が悪い。魔力の消耗も激しく、肉体的、精神的に疲弊しきって息も弱い。
無影灯と部屋に光が灯される。どこにも影はなく、光で満たされた部屋にはネイサン女医、ローザさん、私、そしてニャニャ先輩がいた。
「ニャニャ先輩ッ!? なんで手術台に寝かされてるんですかッ!?」
よく見るとニャニャ先輩だった。どういうわけかニャニャ先輩が血を抜かれてげっそりして息絶え絶え。そもそも、ドラゴンブレスを体験しにダンジョンへ登ったはずのニャニャ先輩がどうしてここに?
「ニャニャ先輩!? どうしてこんなことに……!?」
「う……。リリィに会いに病院に入ったら、問答無用で血を抜かれたです…………。気持ち悪いです………………」
「早く血を戻してくださいッ!」
「わかったわ。すぐに準備をするから、ちょっと待っててね」
医師独特の余裕のある足取りで施術の準備に入る。こちらとしては足早に、迅速に、一刻も早くニャニャ先輩を元気にしてあげたい。もどかしい。焦って手元が狂ってはいけないから、確実丁寧に行動する必要があることは頭では分かってる。
分かってるけど早くしてっ!
「うえーん! せっかく異世界人の血を手に入れたのにーっ! また戻しちゃうなんてあんまりですーっ! 代わりにこっちの血液ちゃんを輸血しますから! こっちの血液ちゃんでも問題なく輸血できますからっ!」
「多分それ、暁ちゃんに知られたら怒られるやつよ? いいから、準備なさい」
「うぅ……うぅぅーー…………」
吸血看護師が現れた。
ブラードさんが泣きながら、渋々、献血したニャニャ先輩の血の入ったマジックアイテムを宙に浮かべる。
キッチン・グレンツェッタで牛の血を受け入れ、コップに注いだというマジックアイテムと同類のもの。それより少しコンパクトなサイズ。輸血用のマジックアイテム【ラブラード】。
名前の由来は吸血看護師、ブラード・スインラの名前と性格からきている。ブラードさんの大好きなマジックアイテム。だからラブラード。それでいいのか……。




