異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 11
衝撃が過ぎ去ってみると、爆心地には元に戻ったペーシェと意識を失った少女がいた。
祈の命に別条がないことを確認したペーシェは彼女を抱き上げて介抱に努める。
「いやぁ、とりあえず暴走が止まったみたい。祈を介抱しとくんで、二人は霊芝探しに行きますか?」
「そうですね。祈はペーシェさんのことを慕ってますので、任せてよろしいでしょう。では、あとは任せてよろしいですかな?」
「ええ、もちろん。メンタルケアもお任せください。諸々の事情もあやふやにしておきます」
「ほーほっほっほ。さすが、ペーシェさんは理解が早くて助かります。私としても、彼女の成長を今以上に注意いたします。みなさま、ご迷惑おかけしました」
なぜ彼が頭を下げるのか。
謝るのはニャニャのほうだ。
「違うですっ! ニャニャが彼女に魔法を当ててしまったからです。全部ニャニャが悪いです! ごめんなさい!」
頭を下げると、彼は小さく笑って謝罪を受け取り、だけどと踵を返す。
「今回のことは事故ですよ。祈が不可視の魔法を使って空を飛んでしまったので。人見知りなので、不可視の魔法を使ってしまったようです。私にも落ち度があります。彼女にはきちんと言って聞かせますゆえ。今回のことはこれにて」
そう言うと、彼はニャニャの心を慮ってその場をあとにした。
これで、これで終わりにしていいのか?
彼女たちには今度、きちんとお詫びをしなくてはならない。
一件落着して溜息が漏れる。
深い深い溜息をついて、力が抜けてその場に尻もちをついた。
あぁーーーー終わったーーーーーー…………………………。
安心も束の間、応援にやってきた冒険者たちが集まって状況説明を求められる。
その中にはシェリー騎士団長やサンジェルマン副騎士団長もいた。
ニャニャはシェリーさんに両肩を掴まれる。
「おい、なんだこの状況は。ドラゴンブレスでだってこんな大穴はできないだろ……隕石でも落ちたのか? それと、遠目で見えた巨大な黒い巨人はなんだったんだ?」
「えぇと……ひとまず危機は去ったです。おかげさまで」
「そ、そうか。それならよかった。で、事の顛末を聞かせてもらえるか? 暁たちも知りたがってる」
「あ、それはアルマから説明します」
手を挙げたアルマは淡々と事の顛末を説明した。
ニャニャがドラゴンブレスを使ったこと。
不可視の魔法を使って空を飛んでた祈にドラゴンブレスが当たったこと。
祈が暴走したこと。
ペーシェとニャニャの合わせ技で祈の暴走を止めたこと。
これを聞いた暁さんが納得した表情を浮かべてうなずく。
「なるほど。祈が暴走したのか。それで太郎が緊急招集をかけたんだな。で、その太郎は?」
「キノコ狩りに戻りました。すみれさんと一緒に」
「――――太郎がそういう態度を取るということは、本当に危険はなくなったってことだな。はぁー……よかったよかった」
暁さんが判断して、後ろに控える三人も安堵の溜息を漏らす。
キャッツウォークのギルドマスター、猫の獣人のミーケさんが尻尾と耳から力を抜いた。
「にゃー。太郎レベルを招集ってことだから、久々に緊張したにゃ。でもよかったにゃ。祈もみんなも無事だったようだし、一件落着にゃ」
隣にいる長身の男性はドラゴンテイルのギルドマスター。彼もほっと安堵して、ぽっかりと空いたクレーターを見下ろした。
「個人的には少し残念だが。それよりも」
「ですねえ」
彼の言葉に続いたのはマジックアイテム開発局局長の七尾さん。嬉しそうな笑顔を浮かべてペーシェを見た。
「さきほどの黒い巨人のほうが気になりますねえ~♪」
「ですよねえ~♪」
七尾さんとアルマが獲物を見る目でペーシェを睨む。
つっこまれたくない様子のペーシェは祈を抱えて答える。
「祈の介抱があるから、フェアリーのところに行かなくっちゃ~♪」
なぜ介抱のためにフェアリーのところへ行くのか。無理筋である。




