異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 4
やんわりと話しを切りながら網の上でおいしそうな音を立てるアサリを箸でつまんで食べごろを見極める。エレニツィカさんは大丈夫そうなものをひとつずつみんなの前へ移動させてくれた。
「手前に置いたやつは食べて大丈夫だよ。熱いから気を付けてね。貝柱にくっついてるから、貝をこう持って、舌に巻き込んで食べると簡単だよ。ツブ貝はもう切り離してるから、箸でつまんで食べられる。まだまだいっぱいあるから、必要なら追加するよ」
と言って、欲しいとオーダーするより早く、彼女はざるに入った追加のアサリを網の上に流し込んだ。自分が食べる用でもあるのだろう。
さっそく焼き上がった貝をつまんでお口に放り込む。弾力があり、噛めば噛むほど旨味が口いっぱいに広がる新鮮なアサリのおいしさにはまりそう。
「う~ん♪ シンプルなアサリの浜焼き、おいしいです~♪」
もうひとつ手にとって咀嚼する。美味!
今年のサマーバケーションでも浜焼きやバーベキューを楽しんだ。魚も肉もおいしかった。これはあの日のことを思い出させる。
はぁ……。なんてまったりした時間なんだ。朝日が昇ると同時に少しずつ体温が高くなってきた。潮風も少し温かくなる。だし汁を飲み干して、マイワシ丼をたいらげて、浜焼きのアサリを堪能しながらにゃんこをもふもふする。
あぁ……。なんて幸せな時間なんだ。あちこちで浜焼きを楽しむ人々が現れた。彼らは朝食を楽しみながら、群がるにゃんこたちにご飯を与える。
もっしゃもっしゃ。にゃんにゃん。
一生懸命にご飯を食べるにゃんこたちの愛らしさたるや、マジにゃんこ!
ニャニャも見たい。一心不乱にご飯をもしゃもしゃするにゃんこを間近で見たい。
「エレニツィカさん、にゃんこ用のご飯をあげたいですが、用意していただけるですか?」
「いいよー。太刀魚を持ってくるから待っててねー♪」
エレニツィカさんの挙動を経験として覚えているのか、彼女の後ろ姿を見たにゃんこたちは一斉にエレニツィカさんの足元にかけよる。甘え声を出して催促する。
うっ、羨ましいっ!
猫を連れてやってきた彼女は足元に注意しながら歩く。楽しそうに歩く。
うっ、羨ましいっ!
「こらこら。お前らの分も焼いてやるからちょっと待ってろ。食ったらきちんと仕事しろよー♪」
羨ましいっ!
羨ましすぎるッ!
ニャニャもにゃんこたちに足元追いかけてもらってにゃあにゃあ鳴いてもらいたい。
ということで、彼女から太刀魚を山盛りにした皿を奪おう。
「エレニツィカさん、お皿を拝領いたしますです」
「ん? ありが…………なにしてんの?」
調理された太刀魚の乗った皿を受け取って円陣の周囲を歩く。すると、にゃんこたちがにゃんにゃんと鳴いて足元をついてくる。
かわいいっ!
一周回って堪能したニャニャが席に戻ろうとする前に、目の前にシェリーさんが現れた。彼女は無言で皿を受け取り、ニャニャと同様に円陣を一周する。
にゃんにゃん。にゃあにゃあ。騎士団長の足元をついてまわる。
かわいいっ!
もう一度堪能したい。欲求のままシェリーさんから皿を受け取ろうとすると、第三者の手が伸びた。
エレニツィカさんだ。
「いや、猫たちがお腹空かせてるんで」
「「うぐぅっ!」」
ニャニャとシェリーさんの喉から声にならない声が捻り出た。




