異世界旅行2-4 世界は驚きの宝箱 30
「次はどうした!?」
「このたぬき汁……もしかして山でじゃれあってたたぬきの…………」
「いや、だから考えすぎだって……」
「そだよー♪ たぬきの肉団子入りたぬき汁、ちょーおいしいから食べて食べて♪」
「肉団子ッ!?」
もうこの子どうしようもないんだがッ!?
いったいなんの肉だったら食べられるんだ!?
想像力の逞しい彼女にはきのこ鍋を食べてもらおう。悪いがインヴィディアさんと交代してもらおう。ついでにベレッタの隣にアルマがついていったから、インヴィディアさんの隣に華恋がやってきた。
「お邪魔します。ラムさんとすみれの分の猪鍋もよそいますね」
「ありがとう。グレンツェンでジビエ鍋はなかなか食べられないから楽しみだ。手前のてっちりっていうのは白身魚の鍋?」
「はい。こちらはエルドラドで養殖してるフグを使ってます。ヘラさんが滞在中にエルドラドで養殖した魚を食べてほしいということでいただきました」
「養殖のフグ! それはとても楽しみだ。でも最初はヘラさんと暁からか。私も早く食べたいな」
純白の白身が鍋の中で踊る。透き通るリーフグリーンの白菜やかぐわしいキノコ、秋の味覚が詰まった鍋を堪能したい。
華恋の話しを聞いたヘラさんは嬉しそうに笑顔を浮かべて手を合わせる。
「それはとても嬉しいわ。見たところおいしく育ったみたいだし、養殖は大成功みたいでよかった。前に食べた塩サバもおいしかったし、新しく養殖を始めた生け簀もきっとうまくいくね。あとは継続的な維持管理と、餌になる作物が不作だった時の対策かな。養殖魚の数を減らしたりとかしないといけなくなるかも」
なるほど、と暁とインヴィディアさんが頷く。エルドラドの養殖技術がほしいインヴィディアさんは視線を鍋からヘラさんに移した。
「養殖に餌を回して現地人の食料が減ってしまっては元も子もないものね。生け簀は職人と魔術師の協力で製作したってことだけど、メンテナンスのことも考えたらメドラウトから技術者をメリアローザに派遣したほうがよさそうね。できればメドラウトで製造できるレベルにしたい。暁ちゃんはどう思ってる? 利益的なところも含めて」
「こちらは構いませんよ。人工魔鉱石の製造から、生け簀の作り方まで覚えてもらえると助かります。インヴィディアさんが治めるメドラウトが豊かになるのであれば、ぜひもありません。諸々に係る諸費用の見積りはすぐに出せますので」
「とても助かるわ。メドラウトは農業も漁業も充足してる。だけど、人口の関係で持て余してる土地が多くて。整備と同時に開墾もしたいって思ってたところなの。あ、そうだ。それとコーヒー豆の栽培方法も教えてもらいたいわ」
「それは構いませんが、ハーブ園も作ってあげてくださいね」
「それはもちろん。コーヒーとハーブは要求される土壌が違うから都合がいいわ」
要求される土壌が同じだったら、義娘とケンカになった可能性がある言い方。
一瞬の沈黙ののち、暁が言葉を切り出す。
「なんにしても、メドラウトが栄える一助になるなら望外の喜びです。いつかあたしも、メドラウトに行ってみたい」
「それなら乾季がいいわ。カラッとしていて過ごしやすいから。ヘラさんもいらっしゃってください。それと、私もグレンツェンに行ってみたいです。メドラウトは各国から学生を募って学びを提供してるのですが、教育を提供する立場として、もっと多くの見識を積みたいんです」
インヴィディアさんの向上心を聞いたヘラさん大歓喜。両手を伸ばしてウェルカムの構え。
「それはもうぜひともいらっしゃってくださいっ! あ、でも、メドラウトがどの程度の教育を実施してるのか分からないので、先に教職員と企画課をメドラウトに派遣したほうがいいかもしれませんね。私ももっと異世界を見たいから、一緒について行きます」
不思議だ。ヘラさんの『一緒について行きます』が、『旅行に行きます。ひゃほー♪』って聞こえた気がした。




