異世界旅行2-4 世界は驚きの宝箱 26
秋の空の帳が降りるのは早い。
あっという間に青い空が茜空に染まる。
楽しい時間は足早に過ぎ去ってしまう。
このあとは宴会。紅葉狩りを手伝ってくれたもみじたちと一緒に卓を囲む。しかし、フェアリーたちは参加できない。彼女たちは日の入りとともに夢を見る。
さよならを言うことがこんなに辛いだなんてっ!
「大丈夫。明日も一緒にティーパーティーしよう!」
「明日も一緒にティーパーティーしよう!」
ローズマリーと約束のハイタッチ。
ローズマリーの笑顔を見てセチアがなにかを思い出した。
「あっ! そういえば、みんなが出かけたあとに彼が満開になったんだった。みんなに見てもらったらいいんじゃない?」
「えっ!? 満開になったの? やったー! みんな、一緒に見に行こう!」
「満開? どんな花が咲いたの?」
「薔薇の花が咲いたの。今までに見たことのない子なんだよ! こっちこっち♪」
手を引かれるように前を飛ぶローズマリーのあとを人間が追う。
中庭から少し離れた秋の花々が咲くエリアにそれはあった。カップ咲きのケイティフォリア系統。100枚の花びらと呼ばれるようにたくさんの花びらをつけるオールドローズは見ごたえ抜群。香りは強く、ひと株でたくさんの花をつける四季咲きのバラ。
なにより目を引くのが色。鮮やかな青と白のグラデーション。快晴を思わせる青。晴天に浮かぶ雲のような白。
あまりの素晴らしさに言葉を失う我々の前に、ローズマリーは胸を張って自慢げに語る。
「あのねあのね。ロリムがすっごいことに気づいたの。今までいろんなバラを見てきたんだけど、青色のバラは見たことがないことにロリムが気づいたの! だから青色のバラが見てみたくって、青色になりたい子を探したら、この子が青色になってみたいって手を挙げてくれたんだ」
「「「「「青色になってみたいって!?」」」」」
「そうなの! だからいっぱい教えてあげたんだ。青色の素晴らしさをっ!」
「「「「「青色の素晴らしさっ!」」」」」
ローズマリーの言葉の端々を切り取って驚きの声が出る。
感動と驚きに打ち震える我々を見たローズマリーは満足そうにうなずき、腕を組んで今日までの努力を語った。
「そう……漁師さんに海の青さを教えてもらい、鳥さんに空の青さの輝きを教えてもらい、華恋に青い宝石の美しさを教えてもらい、そして私たちは――――青色のブルーベリーのおいしさを教えてあげた」
「「「「「ブルーベリーのおいしさ!」」」」」
「だから少し、ブルーベリーみたいな香りがする!」
「「「「「マジかっ!」」」」」
もともと香りが強い品種のケイティフォリア系統。わくわくしながら近づくと、ブルーベリーの甘さと上品なバラの香りを同時に感じる。
色、見た目、香り。全部が素敵!
なにより、青色のバラ。遺伝子組み換えをしない青色のバラなんて信じられん!
大好きな、それも見たことのない青色のバラを前にしてローザが興奮しないわけがない。
「すっっっごぉ~~~~~~い! これ、本当に自然発生した青色なんだよね? 青色の染料を吸わせて花びらを青色にしたとかじゃなくて!」
「染料を吸わせる…………ってなに?」
ローズマリーは染料を吸わせて花びらを染色する方法を知らないみたい。ということは本当に天然由来の青色。すごい。これがフェアリーの実力!
「みんなみんなすごぉ~い! 青色だけでもすごいのに、白と青のグラデーションが出るなんて素敵! すごいすごい! わたしもこの子を育てたいっ!」
「ローザなら安心して任せられるよっ! でもちょっと待ってね」
ローズマリーはローザを背にして青色のケイティフォリアに向き合う。
「ローザのところに行ってみたい子、いる? メリアローザとは違う青空が見られるよ♪」
聞いて、うんうんとうなずく彼女はパッと目を見開いてローザに抱きつく。
「右の子がローザのところに行ってみたいって! 大事に育ててあげてね♪」
「いいの!? ありがとうっ! セチアさん、本当にいいですか?」
「ええ、ローズマリーとその子自身が決めたなら、私も彼女たちの意思を尊重します。それにローザさんなら、大事に育ててくれると信じてますから」
「ありがとうございますっ!」
ところで、と私が素直な疑問をローズマリーに打ち明ける。
「青色の素晴らしさを語って青色になったのはわかるんだけど、全部が青色にならなかったのはどうして?」
「それは……きっと鳥さんに青空の素晴らしさを教えてもらった時に、私たちがふわふわの白い雲を眺めて、『綿あめみたいでおいしそう』って言ったから」
「白い雲を眺めて綿あめ! なるほど、とってもおいしそうだもんね」
「きっととってもおいしいと思うっ!」
なんて純粋な瞳をするんだ。
トドメとばかりにメルヘンパワーを見せつける。
「大きなふっかふかの白い雲の上でお昼寝してみたいなー♪」
「はうぁっ!」
いつかグレンツェンに来たのなら、大きな綿あめを用意しよう。
ふわふわあまあまなベッドで昼寝する姿を拝むのだ。
嗚呼、それはきっと至福の寝顔に違いない。
みなが同じ想像をして、最後までほんわか幸せ気分に浸りました。




