異世界旅行2-4 世界は驚きの宝箱 25
「うっまぁ~! さっくさくの生地ととろとろの果肉。表面は香ばしく焦げてるけど苦いところが全然ない。絶妙な焼き加減! 極めつけはローズシロップの完成度と使い方。香りの立ち方がすごく上品。それに、メインの果物と味がケンカしてない。ここまで甘いシロップを熱したら、どっちかが主張しすぎるはずなのに!」
驚きのあまり大きな声が出てしまった。
私の感動にペーシェが照れ隠しながら自慢する。
「いやぁ~、おいしい焦げ付け加減とか、どの果物とどのローズシロップが相性いいのかとか、いろいろ試したんですよね~。ちなみに、今回使ったのはコンポートにした梨と、ローズシロップは新緑っていうグリーンローズです。梨のさわやかな甘さと新緑を思わせるまったりとした甘さのローズシロップの相性が抜群なんです。もうひとつのタルトタタンはサマーバケーションですみれが作ってくれた、イチジクと八朔のタルトをアレンジしてみたんだ。すみれ、どうかな?」
「ものすっっっごくおいしい! ブラックローズのセクシーな甘さと、八朔の晴れやかな酸味、イチジク独特の甘さが癖になります!」
すみれに続いてシルヴァがタルトタタンの工夫を指摘する。
「これ、キャラメルと一緒にイチジクだけを焦がして作ったんだよね。最初は八朔の酸味とローズシロップの甘さを強く感じるんだけど、咀嚼すると次第次第にイチジクの甘さを感じるようになるの。イチジクを厚めにカットしてるよね。なんていうか、最初は気丈に振る舞って上品さと高貴さが目立つ貴婦人が、彼女の心の内を知る中でかわいらしいところが見えてくる、みたいな!」
「さ、さすがシルヴァさん。あくまでイチジクを主役に使ってみたくて。でもイチジクだけだとパンチが弱いから、味に緩急をつけようと思ってこの構成にしたんです」
「めちゃくちゃ考えて作ってんじゃん!」
プロ意識の高さにつっこみを抑えられなかった。
私の言葉にシルヴァの情熱に火が点く。
「そうなんですよ! ペーシェのタルトタタンはどれも絶品なんです。なのに、いくら誘ってもショコラで働いてくれないんですよ! ひどくないですか!?」
「そいつぁひどいな。私もペーシェのタルトタタンを食べたい」
「えぇー……あたしの意思はどこにー…………?」
ペーシェは困ったような、嬉しいような表情を浮かべて肩を落とす。
でもシルヴァは本気だ。本気でペーシェのタルトタタンに惚れ込んでる。
TPOを弁えるシルヴァはこれ以上、彼女に詰め寄ることはなかった。だが、いつか必ず説得してみせると目力が語る。




