異世界旅行2-4 世界は驚きの宝箱 19
それから目的地に着くまで、すみれはあっちを見ては我慢。こっちを見ては我慢。お宝満載の山に森にわっくわくが止まらない。すみれもプリマみたいにダッシュしてダイブしそうな勢いである。
「到着しました。このへんで紅葉狩りをしましょう。枝を切るので籠を持って受け止めてください。それでは行きますね」
彼女が指さした紅葉の真下で籠を持って構える。
スパッ。
ぽとっ。
スパッ。
ぽとっ。
バキッ!
ぽとっ。
――――バキ?
「すみれ! 石を投げて紅葉を落とすのはいいけど、それで獣に当たって襲われたらヤバいからやめてっ!」
「ぐっ……ぐぬぬっ…………早く紅葉狩りを終えて山菜採りを始めたいのですが」
「どんだけ山菜大好きなの…………」
ここはお姉さんの私がすみれを窘めなくてはなるまい。
「すみれ、今は紅葉狩りのターンだから。TPOをわきまえよう。紅葉饅頭は異世界でしか楽しめない味覚だよ? だったらめいいっぱい楽しまなきゃ」
「そ、そうですね。紅葉の実をいっぱい集めてお饅頭を作ります!」
「そうそうその意気。籠をいっぱいにしちゃおう!」
「おーう!」
そうして、完熟の紅葉を一瞬で見極められるようになったすみれは、もみじに催促するほどに成長した。
より完熟して甘くなった紅葉を選び、もみじが選ぶより早く真下で待機する。
「いや、ちょっと、早すぎだって。あたしの魔法が追いつかないから。そんなに急がなくても山菜は逃げないからっ!」
「さぁ、いっぱい紅葉狩りしましょうっ!」
「あたしが狩られそうな勢いだな……。暁さんから聞いてた以上だ。分かって引き受けたからやるだけやるけども」
分かって引き受けたのかよ。なんて無謀なことを……。
それから三人分の籠をいっぱいにした我々は、下山する前にすみれの山菜採りに付き合わされた。それはもう嬉しそうに山を駆け上がるすみれの姿が眩しい。彼女に楽しそうについて行く赤雷の背の燐光も眩しい。
なんて楽しそうなんだ。私たちのバイタルがもたねえ……。
「相変わらず、体力が無尽蔵すぎる……。私たちはここで待ってるから、二人は山菜巡りに行ってきて」
「いけません! 今日は山狩りのおじいちゃんたちが見回りにきてるとはいえ、害獣に遭遇する可能性がゼロではありません。みなさん、私の視界から外れないようにっ!」
「あ、はい……」
この姉、めっちゃしっかりしてる。実に頼もしい。
ということなので、すみれには近くで山菜採りをしてもらおう。彼女は少し不満なようだ。山菜を採りながら、ちょいちょいこっちを見てくる。不満そうに頬を膨らませて。
すまん、すみれ。せめて少し休ませてくれ。
ここでベレッタが何かに気づいたようだ。お口チャックのジェスチャーをして遠くにある水たまりを指さす。
「見てください。鹿の親子ですよ。とってもかわいいですね」
「おぉ~。仲良く水を飲んでる。生で見るなんてなかなかできない体験だよ。かわいい~♪」
私たちの挙動に気づいたすみれともみじも隣に並んで覗き込む。
「鹿の親子だ。鹿肉はさっぱりした肉質で癖が少なくておいしいよね~。そういえば、新種のキノコを見つけたって聞いたよ。それを付け合わせに、一緒に食べたらどうかな?」
「トリュフはお肉にも魚にも、パスタにも合います。細かく砕いてお塩と一緒に使ったり、お菓子にだって使われます。トリュフオイルも作りたいです。ラムさんはトリュフの使い方に精通されてますので、ぜひ、彼女に聞いてみてください」
「それはいいんだけどさ、大自然の景色に癒されてる時に、鹿を食べる話しするのやめてくんない? ベレッタが泣きそうなんだけど」
鹿を食べる=鹿を殺す。
鹿の親子を見てかわいいと思ったベレッタの前でする話しではない。
これに気づいた二人は半泣きのベレッタに急いで謝り、急いで山を下りることにした。




