異世界旅行2-4 世界は驚きの宝箱 14
あらんかぎりの大声を出したと思ったら、ぐっと力を込めて私のほうへ振り返った。
いきなりの眼力光線に怯んだ私は彼女の顔を見て固まる。
数秒の沈黙ののち、ローズマリーは再びピッツァを咀嚼。飲み下して叫ぶ。
「こんなに素敵な香りのするキノコを使ったピッツァが食べられるなんて、私はなんて幸せなんだあーーーーっ!」
叫び、またも私に振り返ってなにかを訴える。
なにかを期待するような、わくわくに満ちた表情。
再び怯んだ私はなんて声をかければいいか分からなくて沈黙する。
そして三度咀嚼。困惑する私にセチアが小さく耳打ちをした。
「トリュフ入りのピッツァをとても気に入ったみたいです。なにか声をかけてあげてください。じゃないと、ずっとこれが続きますよ?」
「ぐ、ぐぬぬ……そうだったのか。突然のことでびっくりして怯んでしまった」
かすかな本音を言うと、ずっとこのやり取りを続けたい。構ってアピールするローズマリーがかわいくて仕方ない。
でもそれはただのいじわるなのでやめておきましょう。次に彼女が言葉を発した時、私も一緒に喜びを叫ぼう。
咀嚼して、飲み込んで、くるりと振り返る。
来る!
「おいしいピッツァを作ってくれるすみれもラムも大好きーーーーっ!」
「私もみんなのこと、だーいすきーーーーっ!」
反射的にローズマリーを抱き寄せてほっぺをぷにぷに。
きゃいきゃい喜ぶ彼女の姿のなんと愛らしいことか。
あーもーこのままお持ち帰りしてーーーーっ!
♪ ♪ ♪
幸せなランチを過ごしたあとは場所を移して紅葉が広がる山の麓へいざ参る。
紅葉狩り。読んで字の如く、真っ赤に色づいた紅葉を採取するイベントである。
と、その前に事件発生。
紅葉狩りまで少し時間があるから、月下の提案で焼き芋を食べることになった私たちはアーディとキキちゃん、ヤヤちゃん、それに双子の親友のしじまちゃんを残して焼き芋選びに興じていた。
よい塩梅の焼き芋を手に彼らの元へ戻ると、しじまちゃんを泣かしたアーディがいる。
「どういう状況ッ!?」
負けん気の強いしじまちゃんが大号泣。人目もはばからず全力で涙を流す。
この光景を見た義妹は義兄を問い詰めた。
「お義兄ちゃん、いったいなにをしたの!?」
激怒する義妹を前に、アーディはたじろぎながら言い訳をする。
「いや、その、松の葉相撲で勝ったら、しじまちゃんが泣いちゃって……」
「そこはなんとかして負けてあげるところでしょ!」
「そんな無茶な……」
松の葉相撲とは、二股の松の葉を重ね合わせて引っ張り合い、ちぎれたほうが負けというゲーム。秋に落葉する松の葉を使った、古来から受け継がれし伝統ある遊びなのだ。




