ティーパーティー
カードゲームといえば、日本では遊●王とかZ●Xのようなトレーディングカードゲームを思い浮かべる人が多くいるのではないでしょうか。
外国では主にトランプのことを差して言われるそうです。トランプほど、一つの束で複数の遊び方ができるものもないでしょう。
作中に出てくるティレットはアナログゲーム愛好家という設定です。
作者がアナログゲームが好きなので、誰かにアナログゲームが好きな設定を入れたかったのです。
そして作者は麻雀が大好きです。自動卓を購入するほどの愛好家です。
いつか特殊能力的なものを手に入れて、某麻雀漫画の主人公みたいにカンを三つも四つもしてツモってみたいもんです。
以下、主観【小鳥遊すみれ】
6人分の椅子が並んだ机の端は、持ち上げるとちょうど11人分のスペースができるようになる。
運び込んだ椅子と自慢のティーカップを持ち寄って机に並べ、思い思いのお菓子を並べた。
机の上にはお菓子の花が咲いたように賑やかになって、どれから摘もうか迷ってしまう。
カップに紅茶を注ぎ終わり、主催のティレットさんが手を叩いた。
「みなさま、急なお呼びかけにもよらず集まっていただいてありがとうございます。そしてこの場を貸してくださったハティさん、すみれさん、アルマさん、キキさん、ヤヤさん。初対面にも関わらずご助力下さったルーィヒさん、ペーシェさん。改めてお礼申し上げます。どうぞこれからも、末永くお付き合いいただけますよう、心よりお願い申し上げます。それでは、今日のこの良き日と、皆々様の未来を祝って、乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
カップを空に持ち上げて、そのまま口元へ紅茶を運んでひと含み。
皿に戻して拍手喝采。
なんというか、新年の挨拶みたいに儀礼的な形。こういうのがティーパーティーの習わしなのかな。なんにせよ、なんかいいな、こういうの。
「ティレット、めっちゃ形式ばってんね。懇親会の幹事みたい」
楽しそうに笑うペーシェさん。
「え、そうですか? 私としてはかなりフランクにまとめたつもりだったのですけれど」
一般的なものとは違ったらしい。
指摘されて、ティレットさんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
ルーィヒさんは驚いて、それもまた楽しいという笑顔でティレットさんにアドバイスをする。
「マジか。仲間内のお茶会なんだからもっと気楽でいいんだよ。イェーイッ! って感じ」
「い、いぇーい?」
ティレットさんは頑張って無理にはっちゃけてみるも、慣れない所作が中途半端になってしまって赤面必至。
「まぁまぁ、いいじゃないか。さぁ諸君。飲んで食べて騒ごうじゃないか!」
「ルーィヒはなんかおっさんくさいよ?」
盛り上げ役の2人が笑いを誘って場が和やかになった。出会った時からそうだ。ペーシェさんとルーィヒさんは人の心に寄り添うのがとっても上手。
近すぎず遠すぎず、しっかり手を握ってくれる。そんな安心感があった。
積極的に会話を広げるルーィヒさんはハティさんに質問攻め。
ペーシェさんは引っ込み思案と言ってたガレットさんと打ち解けてる。
アルマちゃんとウォルフさんは魔法の話しで盛り上がってる様子。
そして私のお隣さん。ブロンドの髪が美しいティレットさん。
こういう時は何を話せばいいんだろう。
好きな食べ物?
趣味?
お花?
自分から言葉を投げようにも、投げ方がわからない。
キキちゃんはお菓子に夢中で助け船が送られてくる気配もない。
ダメよすみれ。自分から道を切り拓くの!
「あ、あの、ティレットさんは、趣味ってあるんですか?」
聞かれてはっとした顔のティレットさん。なにかに期待している様子。
「え、あぁえっと、実はボードゲームが趣味で、…………そ、そう麻雀。前から興味はあったのだけれど、ルールがいまいち理解できなくて。ネット環境も殆どなかったから。もしよかったら教えてくださいませんか? もし、よかったらでいいのですけれど……」
「麻雀? うん、絶対。絶対やろう。面白いから絶対!」
「はいっ!」
まさかこんなところで麻雀仲間ができるなんて思ってもみなかった。
島での娯楽は唯一、麻雀と将棋。おはじきとか土いじりとかそんなのばっかり。
外の世界に来た時にはどれも通用しないものばかりかもと思ってたけど、そうじゃなかった。
今までやってきたことが報われたような、共通の話題で会話が弾む楽しさというか、同い年の女の子と好きなことについて話し会えるのって、なんだか特別って感じる。
それからティレットさんの趣味のボードゲームの話しで盛り上がって、ゲームが好きなキキちゃんも興味を持って、みんなで遊ぼうって約束をした。
というかポケットに忍ばせたトランプを出してきた。
これは筋金入りだ。
本物の遊び人だ。
今すぐやりたそうな顔をしている。
お菓子が底を尽きそうになると、ハティさんがオーブンで焼いたアップルタルトが追加された。結構お腹がいっぱいだったのに甘いものは別腹なのか。切り分けられたスイーツにかぶりつくのは女の子の性。
とろとろに煮詰めたあま~いリンゴとシナモンがふりかけられたシャキシャキ食感の黄色いリンゴのダブルパンチ。
生地はシュー生地のようにサクサクとして食べやすい。
ハティさんの自慢の得意料理というだけあって、また食べたいと思わせられるほどの中毒性を持ち合わせてる。
それからは趣味の話しや故郷の自慢。カードゲームで遊んだり、オススメの講義を教えてもらったり。
とにかく自分の知らないことが世界にはたくさん溢れてるってことがなんだかとってもわくわくして、これからいっぱい体験できると想像しただけで胸が熱くなった。
知ることはとても楽しい。経験することはもっと楽しい。
空を飛ぶこと。
誰かとおいしい料理を食べること。
一緒に住んで生活すること。
これからもっともっと、自分の心をカラフルに描いていきたい。
ペーシェさんに講義の取り方を教えてもらう前に、夢について質問される。
自分は何になりたいのか。どんな風に生きていくのか。したいことは何か。
質問されて、答えられなかった。
そもそも夢とは。
ペーシェさんは舞台作家。
ルーィヒさんはファンタジー小説家。
ティレットさんは家督を継いで領主になること。
ガレットさんはお嫁さん。
ウォルフさんはティレットさんの護衛兼執事。
エマさんは料理人。
ハティさんは子供たちに勉強を教える教師。
アルマちゃんは最高の魔法使い。
キキちゃんはギルドマスター。
ヤヤちゃんはキキちゃんのお手伝い。
みんな、それぞれに夢を抱いて、夢のために歩を進めてる。
私は……?
私はどうしたいんだろう。
それを考えるのはまだ先。今はまだ何も知らない。何も分からない
少なくとも、ここにいる誰よりも、知識も経験も不足してる。
だから、まずは色々やってみよう。積極的に関わってみよう。
新しい一歩を踏み出すのは、不安で怖くて足踏みをしてしまいそう。だけど、勇気をもって前を見よう。
きっとそこに、素敵な明日があると信じて。
スイーツは別腹。スイーツに限らず別腹と呼ばれる現象がありますね。
何かの実験で見たのですが、満腹状態でも、≪食べたい!≫と思った瞬間、それまで食べた物を一気に消化して、胃袋のスペースを空けるのだそうです。
人間の体ってすげぇ! って思いました。