異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 54
もふもふの動物と言えばピウスもそう。姫様はピウスにつきっきりになってシャンプーを泡立て、丹念に体の汚れを落としてやる。水浴びはしても、もこもこのあわあわになったことのないピウスは不思議な感覚のせいか固まったまま動かない。それでも冷たい水より温水で体を洗うほうが心地いいのか、しきりに甘え声を出して姫様を喜ばせる。
それにしても、大型犬を露天風呂に入れて大丈夫なのだろうか。
番頭の紫は姫様がピウスを人間用の風呂に入れないように目を凝らす。あまりよろしくはないようだ。
「ピウス~♪ 気持ちいいかな~?」
『あったかい水で体を洗うことがこんなに気持ちいいだなんて知らなかった!』
「ふふふ♪ 世界にはもっともっと楽しいことやびっくりすることがたくさんありますからね。一緒に楽しんでいきましょう!」
二人仲良くお風呂に入る姿を見て安心する。この様子ならベルンに戻ってもうまくやっていけるだろう。
問題はピウスの出所をどうやって誤魔化すか、だ。多頭の動物というのはいないわけではない。過去には頭が二つある猫や蛇などが確認されている。そのほとんどは遺伝子に異常をきたした個体。それゆえにか短命の宿命にある。
ピウスもその線で誤魔化せないこともない。が、複数の魔法を使う三つ首の巨大犬など、どう考えても人智を超えた存在でしかない。出張場所は秘密にしてあるが、人々の噂では倭国に出張ということになっている。
超技術の魔剣を持ち帰ったのだ。勘違いされても仕方がない。勘違いされる倭国にとってはいい迷惑でしかない。
なんて言って誤魔化すか。
結局、悩みのタネは尽きませんな。
あー、かんがえるのがめんどくさくなってきたー。
かんがえるのはねておきて、あしたになってからにすればいいかー。
「シェリーさん。少しお話しよろしいですか?」
「どうした? 姫様の処遇についての話しか?」
「察しがよろしいようで」
暁の気配を察したバストがプリマを連れて風呂を出て行ってしまった。
彼女は申し訳なさそうにしながらも、決着は早いほうがいいと切り出しづらい話題を振ってくる。
「シャルロッテ姫、リリス姫、インヴィディアさんとシェリーさんとあたしを交えて話しをしようと思います。それで、どのくらいの処置が適当だと思いますか?」
つまりここで口裏合わせをしておこうということか。暁らしい考えだ。
「騎士団長としては、姫様には大使としての能力があると思っている。無断でダンジョンに行っておいて、『能力がある』というのも説得力に欠けるが……。ただ、インヴィディアさんの付き添いがあったとはいえ、周囲に相談くらいはしてほしかった」
まぁそんなことをすれば大反対は目に見えてるが。
「そういう意味ではインヴィディアさんにも非があると思う。リリス姫のことはよくわからないが、見てるとシャルロッテ姫と同族な気がする。えぇと、問題を整理すると、無断でダンジョンに立ち入ったこと、暁や私に相談しなかったこと。なので、あまあまで査定して『ダンジョンへの立ち入りの禁止』というのはどうだろう。フラウウィードを含めて」
「フラウウィードを含めてというのは厳しい処置ですな。でもそのくらいがちょうどいいのかもしれません。あたしとしては、フラウウィードは敵性モンスターがいないので、騎士団員の付き添い有りなら入場許可を出してもいいと思いますが? まぁ戒めの意味があるのでしょうけど」
「よくわかってるじゃないか。そのへんは商人が大きくふっかけて、譲歩する形で納得させてやってくれ」
「おや、シェリーさんにも商才があるのでは?」
「これでも騎士団長。部下を持つ身だからな。人心掌握術くらいは習得してるさ。と言いながら、姫様の暴挙を見抜けなかったわけだが……」
「ははは……その点においては姫様の女狐力が上だったということでしょう」
「女狐力より王族としての器量をあげてほしいものだ……」
「おっしゃる通りで」
談笑ののち、姫様に声をかけて風呂から上がる。
姫様には、『今後のことについて簡単な相談があるので、食堂に来てください』とだけ伝えた。そういう言い方でないと姫様がピウスに乗って逃げかねない。




