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異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 52

 詩織の部屋はかなり殺風景な印象。備え付けの椅子とテーブルの上には華恋作であろうブレスレットと、ご自慢の鎧と剣が置いてある。

 あとは畳の部屋に布団が敷いてあるくらい。あんまり生活感がないな。異世界から転生して間もないという。借金もこさえてしまったということだから、節制に努めているのだろう。

 我々三人に紹介したいものがクローゼットの中にあるという。

 いったいなにが出てくるのか。取っ手に手をかけた詩織が申し訳なさそうな顔をして語る。


「えっと、実はみなさんに買い取っていただきたい素材があるんです」

「買い取ってほしい素材? 有益なものならもちろんだ。ぜひとも見せてほしい」

「実は……」


 言葉を濁して見せたものは真っ黒より真っ黒な、漆黒と呼んで間違いない毛皮。

 数にして27枚。丁寧に鞣された毛皮には一切の汚れはなく毛皮もふっさふさ。職人の仕事を感じた。

 この黒さ。

 この感触。

 見覚えがある。今朝がた討伐したカトブレパスの毛皮。朝食の席で暁に見せてもらったカトブレパスの毛皮。

 それがどうして、こんなにたくさんあるんだ?


 冒険者でも討伐しづらいモンスターの毛皮が攻撃力のない詩織の部屋にある。

 今朝、暁は在庫がいくつかあると言った。詩織のクローゼットにあるということは、これらは彼女が獲得したものということになる。いったいどうやって手に入れたのか。

 毛皮のもふもふ加減を吟味して、詩織に疑問をぶつける。


「答えたくなければいいんだが、カトブレパスの毛皮をどうやって手に入れたんだ? 失礼だが、とても詩織単体で討伐できるとは思えないのだが。仲間と一緒に討伐に行ったのか?」

「いいえ。私一人で採取に行きました」


 嘘……だろ…………?

 半信半疑を顔に浮かべて質問を続ける。


「一人で? カトブレパスと戦ったのか?」

「それは……」


 口ごもんで、彼女は私たちを信頼して話してくれる。


「みなさんは口が固いと思うのでお話しします。これは私の飯のタネのひとつなので、他言無用でお願いします。実は瀕死のカトブレパスにトドメを刺してから毛皮を剝ぎ取りました」


 発想の転換!

 そんな方法があったか!


「な、なるほど……弱ってる個体を狙い撃ちにして毛皮を採取したというわけか。賢い選択だな。特にカトブレパスは強いから、弱ってるところを狙うのは正しいかもしれん」


 褒められて、詩織は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 今回の討伐は、クロにレオさんと私の強さを見せつけるという意味があったからカトブレパスの討伐に向かった。同時に、毛皮がほしいという思惑もあった。

 だが、それにしても、そんな裏技があったなら、あんなにたいへんな討伐を受けただろうか。

 正直、微妙なところである。

 クロはたいていのモンスターを討伐できる。

 だから並大抵のモンスター討伐では彼女は私たちの強さを認めない。

 これでよかったのだ。これで…………。


 私たちの心労を察した暁が詳しいカトブレパスの毛皮の採取方法を教えてくれる。


「気にしないでください。瀕死のカトブレパスの毛皮を剥ぐと言っても、首を切れば毒が漏れますので普通の人間には採取不可能です。彼女の鎧にはあらゆる毒に耐性があるらしく、カトブレパスの毒が効きません。ですので、こんな芸当ができるのは彼女だけです。冒険者だって、採取方法を知ってもやらないでしょう。命がいくつあっても足りはしません」

「そんなカラクリがあったのか。なんにしても、詩織のおかげでカトブレパスの毛皮が手に入る。本当に頼もしい」

「た、頼もしいっ!?」


 褒めるたびにやんやんする姿は年相応の少女らしくかわいらしい。

 とも、かく、だっ!

 これで討伐難度が異常に高いカトブレパスと戦わなくて済む。物事は捉えよう。プラス思考が何より大事。

 崩れそうになる膝をプラス転換で支え、いざ露天風呂へっ!

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