異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 45
アイシャの制止も聞かず、カトブレパスステーキをひと口食べた暁は力なく地面に倒れた。顔は真っ青になり、意識不明、体の痙攣、口から泡を吹き始める。
「リリィ! ヘラさん! 急患ですッ!」
私の言霊に脊髄反射的に反応した二人は暁の姿を見て仰天。すぐさま応急処置に入る。
幸い、救命措置が早かったことから命に別条はなかった。しばらくはまともに起き上がれないだろうとのことだけど。
無様な暁の姿を見たアイシャが声を大にして涙を浮かべる。
「だから言ったのに! 暁さんの気持ちは分かりますけど、どうしていつもいつも無茶ばっかりするんですかっ!」
今回の事例ではどの程度の無茶ばかりしてるのか分からんところがむず痒いな……。
なんにしても、これは暁が悪い。とにかく肉は廃棄しよう。燃やして埋めて忘れよう。
みなの心がひとつになった、と思ったのに、余計なことを考える輩が一人いる。
アンチクロス・ギルティブラッド。空気が読めず、興味のないことには無関心。なにより厄介なのが、勝つためならなんでもするということ。
暁はカトブレパスの肉を食べて倒れた。つまり、これを食べて倒れなければ自分のほうが暁より強い。彼女の上に立てる。
そう考えて肉を食べ、暁と同じ末路をたどった。
「クロちゃん何やってんの!?」
旦那になる予定のレオさんが絶叫。彼女の亭主になるレオさんは突発的な彼女の奇行のフォローをしないといけないのか。頑張ってください。
夕飯の前に嫌な光景を見てしまった。
気を取り直して夕飯にしよう。二人仲良くグロッキーダウンした姿に手を合わせて振り向くと、我々の目を盗んでピウスがカトブレパスの肉をたいらげた。
「「「「「おぉーーーーいッ!」」」」」
今度はお前か!
次から次へと、どうしてカトブレパスの肉に群がるんだ!?
バカばっかりなの!?
「早くっ! 早くぺっしなさい! ピウス、いい子だから、毒なんて食べちゃだめだから!」
『わぁ~! これって真っ黒い毛のある獣の肉だよね。人間が料理するとこんなにおいしくなるんだ。人間ってすごいなっ!』
「なっ……なんですって…………!?」
どうやらピウスにとって毒は美味のようだ。
地獄の番犬ゆえか、毒は好物らしい。マジか。
ピウスの体質に興味津々のヘラさんが彼のお腹をさする。
「なるほど。どうやら体内で毒を分解してるみたい。彼の胃液を調べれば強力かつ万能な血清が手に入るかも」
一瞬、ヘラさんの目がギラついた。
これを見た姫様がヘラさんからピウスを取り上げる。
「いけませんっ! いくら人類の福利厚生のためだからって、ピウスを解剖なんてさせませんよっ!」
「解剖は飛躍しすぎでしょう……」
「解剖なんてしないわよ。検査だけさせてほしいわ。ほら、毒を食べるわんちゃんが普通の食生活のはずがないわ。それに彼の健康診断もしておかなきゃ。せっかく使い魔になったのに環境の変化で体調を崩したらシャルロッテ姫様だって嫌でしょう? 大丈夫。安心して。お腹を開くなんてしないから。胃カメラを入れて腸内細菌を採取するだけだからっ!」
「ヘラさんの圧が怖いですっ!」
「ヘラさんちょっと落ち着いてっ!」
好奇心暴走モードのヘラさんを制してピウスを見えないところへ移動させる。カトブレパスの肉が余ってるということなので、彼を外へ出して食事にありついてもらおう。
その隙にヘラさんには深呼吸をしてもらって落ち着きを取り戻してもらおう。
「ヘラさん、姫様とピウスが怯えるので好奇心を抑えてください。学術都市の長にこんなことを言うのは心苦しいですが、好奇心を抑えてください」
「ごめんなさい。うっかり本能のまま迫ってしまったわ。でも彼が非常に有用な研究対象に変わりないから、姫様を説得してピウスの体を調べてね♪」
「ね♪ と言われても……」
ダメだこの人。スイッチが入ったら止められない。いったいどうすれば?
「ヘラさーん! 明日の予定なんですけど、午前中はどこかに行かれますか? よろしければご一緒したいのですがどうでしょうか?」
すみれ降臨!
八方美人なヘラさんはすみれに振り返って答える。
「ドラゴンの剥製が完成したってことだから、明日の朝に見学に行くの。ベレッタちゃんとアルマちゃんを連れて、空に乗って飛べるかどうかの検証もする予定よ。よかったらみんなで行きましょう!」
「ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶ!? 私もお空を飛んでみたいです! 初めてハティさんに会った時、空を飛んでグレンツェンを見渡した時は感動しました。空中散歩の時も、空から地平線を見た時は胸がときめきました! 七夕祭りの時にアルカンレティアから茜空と星空を同時に見た時は言葉が出ないほどに素敵でした! 私も空から世界を見てみたいですっ!」
「そうでしょうそうでしょう! 空から世界を見てみましょう!」
ナイス、すみれ!
ヘラさんの興味がドラゴンへ向かった。
そして私もドラゴンの背中に乗って空から世界を見てみたい。
明日はヘラさんたちと一緒にドラゴン見学をしよう。




