異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 44
それにしても驚くべきことに、超巨大な犬が現れてもメリアローザの住人は驚きもしない。
スケルトンがいるなら三つ首の巨大な犬などどうってことないということか。それどころか、好奇心旺盛な子供たちはケルベロスに近寄ってもふもふしたいという始末。
未知への不安とか、そういうものはないのだろうか。
「シェリーさーん。姫様ー。晩御飯の支度が整いましたので、そろそろ食堂へいらっしゃってくださーい」
キキとヤヤが晩御飯を待ち遠しくしてぴょんぴょん飛び跳ねる。
彼女たちを待たせるわけにもいくまい。返事をして、足早に暖簾をくぐる。
するとそこにはいかにもおいしそうなステーキがひと皿置かれたテーブルがあった。
ナイフとフォークを握った暁を制止するように、暁の両腕をアイシャが握る。
え、これどういう状況なの?
「ちょ、ベレッタ、これはどういう状況なんだ? なんで暁の食事をアイシャが邪魔してるんだ?」
ベレッタは困った表情をして答える。
「それが……暁さんが調理させた肉はカトブレパスの肉なんです」
「なん……だと…………ッ!?」
毒の息を吐き、あらゆる攻撃を防ぐ肉体を持つモンスターの肉。
どう考えても毒とアンモニアにまみれた肉食獣の体。絶対食肉にしちゃダメなやつ!
なんでそんなもん調理させた?
図らずも私の疑問をアイシャが晴らしてくれる。
「暁さん、調理しておいてこんなことを言うのは申し訳ありませんが、このお肉を食べるのはやめてください。考えられる限りの臭み消しに毒消しも施しましたが、これはどう考えても食べられません。今すぐ捨ててください。また命を粗末にしたのかって怒られますよ!?」
「カトブレパスだって動物だ。食肉にできる可能性があるなら試しておかなくてはなるまい。より多くの肉が得られれば、よりよい食卓を作ることができるはずだ」
「料理した私がダメって言ってるんですから、ダメなものはダメなんです! どう頑張っても臭すぎて死にます。挑戦することは大事ですが、挑戦しなくてもいいし分かりきってることはしなくてもいいんです!」
「アイシャだって食べてないだろう。だったらまだ挑戦してないじゃないか」
「やる前から分かってることはやらなくていいんですッ!」
「ひと口だけ。せっかく作ったんだからせめてひと口だけ!」
「もうっ! また死んでも知りませんよッ!?」
また死んでも、ってどういう意味だよ。
不死身だからこそ、暁は何回か死んだことがあるのか?
アルマに聞いてみたいところではあるが、死んだことがあるなら聞くのは野暮か。なんにしても怖いな。こういうベルン側の世界とメリアローザ側の世界の常識や認識のズレも考慮して付き合っていかなくてはなるまい。
まぁ、どこの世界だって、そうそう不死身の人間はいないだろうけど。




