異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 42
三日月岩の麓まで戻ると、丘の上でティーパーティーを楽しんでいたみんなが集まっていた。彼らも火の玉を見て心配になって様子を見に来たのだ。
ヘラさんが一歩前へ出て事情を聞き出す。
「姫様とアルマちゃんが空を飛んだと思ったら、火の玉がぶつかって地面に落ちていったけど大丈夫だったの? 二人ともボロボロみたいだけど。それとそっちの大きなわんちゃんが例のケルベロス?」
聞かれ、姫様は使い魔の背中から降りて嬉しそうにはしゃぐ。
「服は燃えてしまいましたが、ケガも火傷もありません。それより見てください。わたくしの使い魔に、家族になったピウスです。ピウス、彼女たちはわたくしの友人です。挨拶してくださいな♪」
『初めまして。ピウスと申します。よ、宜しくお願い致します』
ずいぶん緊張してるな。こんなにたくさんの人間を見るのは初めてだろうし、無理はないか。
大きくて礼儀正しいわんちゃんを見て好感を持った彼らは、きらきらしたまなざしで三つ首の番犬を見上げる。
フェアリーたちも飛んできて、彼の周りをくるくると飛び回った。
「やったね、ピウス。お日様の下に出られたんだね! これで一緒に日向ぼっこしたり、いろんなところへお散歩できるね♪」
『うん。君たちの言ったとおりだ。信じていれば必ず叶う、って。素敵なご主人様に巡り合えたよ』
「うん。やったね♪ あ、そうだ。おなか減ってない? 果物があるからあげるね。今日はピウスの大好物のりんごと桃とみかんを持ってきたんだ。シャルロッテ、これをピウスに食べさせてあげて」
「ありがとうございます。わぁ~おいしそうな果物ですね」
「あ、ちなみにね、りんごは真ん中、右がみかん、左が桃ね」
「まぁ、それぞれに好みが違うのですね。教えてくださってありがとうございます♪」
フェアリーから果物を手に取った姫様は言われた通りの組み合わせで果物を渡す。
ピウスはそれはそれはおいしそうに咀嚼して、甘え声を出して喜んだ。
つられてもふもふ大好キッズが期待のまなざしを姫様に向ける。キキちゃんとヤヤちゃんがピウスを見上げ、姫様にお願いした。
「あのあの、ピウスに乗ってもいいいですか? 姫様が乗ったみたいに、ピウスの背中に乗ってみたいっ!」
「私も乗ってみたいです。背中をもふもふしたいですっ!」
「もちろんっ! ピウスもいいですよね!」
『もちろんっ!』
彼はうずくまって背中を低くして双子が乗りやすいように身をかがめた。が、あまりに大きすぎて一人では乗れない。姫様がキキちゃんを抱きかかえようとした途端、ピウスは身を縮めて小さくなった。
腹ばいになって背中を低くしたわけじゃない。言葉通り、体が縮んで小さくなったのだ。さっきまで7人乗りの普通車くらいのサイズだったのに、今は馬くらいの大きさに変化した。
「ん!? どういうこと!?」
私の素っ頓狂な声にピウスが嬉しそうに答える。
『どんな大きさのご主人様にも背中に乗ってもらえるように、体の大きさを変えられる特訓をしたんだ。だからもっともっと小さくなれるし、すっごく大きくだってなれるんだ』
彼の言葉を聞いて、暁がなにかを思い出したようだ。
「あ~、それで雪原エリアにバカデカイ獣の足跡があったのか。推定全長100メートルくらいの怪物が生息してると思って警戒していたが、これでその心配はなくなったな」
「よくそんな怪物がいるって知ってて姫様を連れてくる気になったな」
「探索してもいませんでしたし、足跡がそれひとつだったので足跡の形をした窪みだとばかり。獣として移動した痕跡がありませんでしたので。状況はわかりませんが、一度だけその場で大きくなって、すぐに元のサイズに戻ったのでしょう」
「そういうことか。強敵がいないならそれでいいんだ」
安堵してケルベロスを見ると双子を乗せて楽しそうにしている。フェアリーたちも彼の背中に乗ってぴょんぴょん飛び跳ねたり、もふもふの毛並みの海で泳いだりと幸せな時間を過ごす。
くるくると毛並みの上で踊るバーニアが姫様に素敵な提案をした。
「ピウスと一緒ならぴゅーんって、スタァホワイトを採りに行けちゃうね。バーニアたちはお空を飛んで行けるけど、距離が遠くてちょっと疲れちゃうの」
「っ! そうですわ! ピウス、一緒にスタァホワイトを採りに行きましょう!」
『うん、わかった!』
と言って、すぐさま駆け出してあっという間に吹きすさんでしまった。
キキちゃんもヤヤちゃんも、フェアリーたちも引き連れて。




