異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 40
するとどうだろう。嫌な予感というのはどういうわけか当たるわけで、姫様が空中から降下しようとした途端、背後から巨大な火の玉が彼女たちめがけて飛んで行った。
火の玉はとんでもない速さで空を目指し、アルマと姫様を攫ってアーチを描きながら地上へ落ちて行く。
私はあらんかぎりの身体強化魔法を自身に付与。地面を蹴って走り出す。
これを見た暁も並走するように走り抜ける。
インヴィディアさんはフライの魔法を行使して先を進みながら、我々の前に立ちふさがる障害物を地面に沈めて道を作る。
いったいなにが起きたんだ?
さっきの火の玉の正体は?
いろいろと疑問が浮かんでは無視していく。
大事なのは姫様が無事なのかどうかということ。ただそれだけ。
それ以外に大事なことなどありはしない。
着弾地点に到着すると、黒焦げになった姫様とアルマとケルベロスの姿がある。
アルマは歯ぎしりをしながら納得のいかない不貞腐れた表情でケルベロスを睨んだ。
姫様はケルベロスに慈愛の手を差し伸べ、愛を囁くように涙を流す。
「姫様! ご無事ですか!?」
寄り添うと、彼女は涙を浮かべながらも満面の笑みを返した。
「大丈夫です。少し服と髪が燃えてしまっただけです。命に別状はありませんし、怪我や火傷もありません」
「ですが念のため、リリィに診てもらいましょう。あれ? リリィは?」
暁とインヴィディアさん以外の姿がない。これはどういうことか?
インヴィディアさんが答えを示す。
「さすがに全力疾走の私たちに着いてくるっていうのは無理なんじゃないかしら? でもフライの魔法を使って跡を追ってるみたいだから、じきにたどり着くと思うわ」
「むむっ……そうですか。念のため、お体を確認させてください」
腰まであった髪はセミロングになってしまった。
服もボロボロ。これは修繕不可能だな。
不思議なことに髪以外の部分に外傷がまったくない。
数秒の間とはいえ、火の中に体をさらせば水ぶくれくらいできそうなものなのに。
なにはともあれ無事でなにより。
次はケルベロスについてだ。察するに、先ほどの火の玉は彼だったのだろう。
どうして火の玉に変身して姫様たちを攫って行ったのか。その理由を聞かねばなるまい。
「君の言葉で聞きたい。どうして火の玉になって姫様たちに向かっていったんだ?」
彼は姫様を危険に晒したことを理解しているのか、私から視線を逸らして口ごもる。
もう少し安心するような声かけをしたほうがいいか?
膝をついて優しく微笑むように彼と目線を合わせて語ろう。
「大丈夫だ。彼女たちを傷つけようとしてやったことじゃないことは分かってる。だから正直に話してほしい」
危害を加えるなら出会った時にしてるだろう。それに、嚙み殺してしまえばそれで終わりだ。
私は姫様が信じるケルベロスを信じたい。
重い口をようやく開いて、彼は真心を話してくれた。
『シャルロッテが空から落っこちて怪我をすると思って、心配で、怖くて、助けなきゃって、そう思ったら体が動いたんだ……』
「そうですっ! 彼はわたくしを助けようとしてくれたんです。太陽の光が体に当たったら、体が燃えてしまうことをうっかり忘れてただけなんです。彼は本当に、わたくしのことを心配してくれて…………だから、どうか怒らないであげてくださいっ!」
抱きしめ合う姫様とケルベロスを見て、私は安堵とともに肩を落とす。
「怒るだなんてとんでもありません。彼の心根の優しさは理解しました。まぁでも、大事なことをうっかり忘れてしまわないように、これからはきちんと主人が躾けていかなくてはいけませんよ?」
「――――――――もちろんですっ!」
喜び合う二人を見ると、なんだか私たちまでほっこりしてしまう。
そうとなればリベンジだ。神の呪いを解くためにはスタァホワイトが必要不可欠。アルマには申し訳ないが、再度、マスフライで飛んでもらおう。
「アルマ、すまないが…………と言っても、アルマも服がボロボロだな。着替えてからにするか?」
「いえ、別に誰かに見られて困るわけではないので。ですが願わくばそこのワン公を一発殴ってやりたい気分です」
「それはやめてあげてくれ。今度、魔法をぶつけていい超硬い壁を用意してあげるから」
「そっ、そんなのでアルマの気がおさまると思わないでくださいっ!」
ちょっと心揺れてるじゃないか。




