異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 39
結局、マジックアイテムの安全性を担保に押し切られてしまった。
目的を達成する前に、姫様は律儀にもケルベロスのところまで行って彼を励ます。
「これからお花を採りに行ってきますからね。もう少しの辛抱です。崖のおかげで洞窟の外に影ができてますから、そこから見守っていてください」
そう言ってケルベロスをなでなでしてやると、彼は甘え声を出して姫様に頬をこすりつけた。
これだけ見ると感動の瞬間なんだけど……、サイズ感がすさまじすぎて感情移入が難しい。
せめてゴールデンレトリーバーくらいのサイズならかわいげもあるんだが。頭一個が酒樽より大きくて、背丈が2メートルくらいあるんだもんなぁ。
こいつを飼うのか。一日の食費はいくらになるだろう。
現実的な心配をしたところで姫様の想いは止まらない。
姫様は挨拶を済ませると、アルマの集団飛行と共に空へ飛び立っていく。
姫様はわくわく。
護衛の私はハラハラ。
アルマのことも姫様のことも信じてはいる。信じてはいるが心配が先に立って仕方ない。
「と、言うか、姫様もフライの魔法は使えますよね?」
リリィの質問にインヴィディアさんが答える。
「普段から使ってないから少し心配があるんじゃない? それにアルマちゃんのほうが魔法に一日の長があるから」
「姫様に魔法を行使してもらうより、アルマさんに引率してもらったほうが安心ですね。ちなみに、護衛の桜さんはどこかにいらっしゃるのですか?」
「彼女は今、スカサハと一緒にいてここにはいないわ。彼女なら地面に激突する前に闇魔法を使って衝突を回避できるから呼んでおいたほうがよかったかも」
そんなことができるなら桜を呼んでおけばよかった。今からでも遅くないから呼んでほしいくらいだ。
後悔先に立たず。アルマと姫様が上空へ上昇していく。ゆっくりゆっくりと天を目指し、放物線を描いてスタァホワイトが群生する地点まで上昇を続けた。
下から見ていて分かる。姫様がわくわくしすぎてはしゃぎまくり、あまり動かないようにとアルマが諭す姿がある。
万が一にでも落下したらどうするつもりなのか。上昇と移動に合わせて地上のサンジェルマンさんが待機してるとはいえ、見る我々には心臓に悪い。
ケルベロスもドキドキとハラハラで落ち着かない様子。
小さくなっていく姫様を見つめ、丘で出来た影の中をうろうろとして心配する。
心から彼女を心配する様子からするに、人間に対して本当に敵意はないらしい。それはそれで喜ばしい態度が見れたと思っておこう。
「それじゃ、私たちも移動しましょう。三日月岩の麓で姫様を待つとしましょうか」
インヴィディアさんの号令とともにケルベロスに挨拶をしてカラフルな草原を抜ける。
ケルベロスが夜間に通り続けたのであろう獣道の轍を踏んで、三日月岩の足元を目指した。
「なにごともなくスタァホワイトを採取できればいいんだが」
ぽろりつ呟いた本音にニャニャが脊髄反射的につっこんでくる。
「シェリー騎士団長、それ、フラグにしか聞こえないです。余計なことは言わないほうが吉です」
「すまん。姫様のことだから、このまますんなり終わると思えなくて」
「フラグ…………」
いかん。また余計なことを口にしてしまった。




