異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 38
続いて姫様がアルマの閃きにインスパイアを得たようだ。
嫌な予感がする。
「暁さんに三日月岩を斬ってもらえばいいと思います。そうすれば、花も燃やさず、道のりも平坦になると思います。根本を真一文字に真っ二つにお願いします」
「――――――――そうすると景観が損なわれるのでやめておきます」
なぜ『できない』とは言わないのだ……。
この際、暁につっこむのはやめておこう。
姫様を窘めよう。
「姫様、生態系のことを考えてください。観念して登山しましょう。それが一番手っ取り早いと思いますよ?」
「うぅ~~…………できるだけ楽したいですぅ~~…………」
「思ってもそういうことは口に出さないほうがいいですよ?」
姫様は呆然と天を見上げて脱力した。
ケルベロスは使い魔にしたいけど、しんどいことはしたくない。
困ったわがまま姫様だ。彼女の感情を毎日のように受け止めるソフィアには頭が上がらないな。
「姫様、アルマに良いアイディーアがございます」
「あら、なにかしら?」
提案するアルマの顔がさっきと同じ。
目をかっ開いて無表情でいる。嫌な予感しかしない。
「アルマが姫様と一緒にフライの魔法で飛んで行けばいいんですよ。40秒で獲ってきます」
アルマの提案を肯定しようとして、先にインヴィディアさんが否定した。
「それなんだけど、岩山が大きいせいかフライの魔法で近づこうとすると、少しずつ魔法が弱くなって放物線を描くように不時着しちゃうの。だから途中までしか飛べないわよ?」
「――――どうにかしてこの岩山をぶっ壊してやりたい。魔法を否定する全てのモノを灰燼に帰してやりたい」
「アルマちゃん、もしかしてなにかストレスを抱えてる?」
インヴィディアさんが本気で心配する。アルマは我々の心配をよそに天を見上げ、空と岩山を繋ぐようにふりふりフリルのついた袖で弧を描いた。
今度はなにを考えてるんだ。彼女がアイデアを出す前に解決策を見つけなくてはならない。
「それではこうしましょう。魔法が弱まるの前提で、もっと高い位置からフライの魔法で近づきましょう。そうすれば岩山を克服できます」
「それはいいけど、帰る時はどうするの? 魔力を霧散させる岩山の上だとフライの魔法が起動しないと思うけど」
「――――とにかく岩山をぶっ壊したいです」
「ダメだわ、この子。魔法を否定する存在を始末することしか頭にない」
ただの危ない人と化してる。
本気で心配するインヴィディアさんが暁のところにアルマを連れて行こうとして姫様が肩を掴んだ。
「アルマちゃんのナイスアイデアに一票ですっ! フライの魔法で不時着しましょう!」
「不時着って言い方はすごく嫌ですね」
「それと、シェリー騎士団長とサンジェルマンさんは土属性優位の魔力持ちですよね。それに、一定以上の魔力の練度であれば魔力を霧散させる鉱物にも魔法の影響を与えられるということでした。なので、お二人で滑り台を作っておいてください。帰りは2500メートルの滑り台で帰還しますっ!」
「「はいっ!?」」
2500メートルの滑り台!?
なに言ってんだこの姫様は!
「いや、さすがにそれはちょっと無理です!」
「じゃあ2000メートルで!」
「距離の問題じゃないんですよ!」
岩石を手に持って握りしめる。握力でぶっ壊すつもりで握りしめる。
「自分の足で歩けばいいじゃないですか! たった2500メートルですよ。傾斜が45度近くあるだけです。足場を間違えなければ踏み外すこともありません。一緒に行きますから。しっかりフォローしますから。サンジェルマンさんもいますから」
「嫌です! 極力楽したいです!」
「本気でケルベロスを使い魔にする気あるんですか!?」
どうしてそんなに面倒くさがるのかが分からない。
たしかに体力の無い姫様が2500メートルの登山をするのはたいへんかもしれない。
だとしても、そんなに嫌がる距離か!?
イヤイヤ期なの!?
迫ると姫様が不貞腐れてしまった。
目に涙を浮かべ、努力したくない少女はぷんすこ怒る。
「わたくしはベルンではできないことがやってみたいんです! ベルンでは自由に空が飛べないから、ここで思いっきり空を飛びたいんです!」
「それならそうとはっきりおっしゃって下さいよ……」
「だって空を飛ぶのは危ないって、言われそうで……」
「まぁ、はい……」
だって姫様に危ないことさせられないもん。
安全に空を飛ぶ方法はないものか。
すると、インヴィディアさんが姫様にマジックアイテムを手渡した。
「こんなこともあろうかと、転移符を持ってきました。これがあれば、万が一落下しても転移符で安全に退避できるわ。思いっきり空を飛びましょう。アルマちゃんと一緒ならきっと大丈夫よ♪」
「ですよねっ!」
アルマとインヴィディアさんと姫様がハイタッチ。
なんだか混ぜるな危険な予感がする。同時に手遅れな予感もする。




