異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 36
平静を装ってベルン組に声を掛け、一度、ティーパーティーから離脱。緑の丘を下ってケルベロスが住むという洞窟へと向かう。
普段は猫ばかり気にするニャニャも大きなわんわんをもふもふできると聞いてテンションが上がる。
「首が三つあるわんわんなんて初めてです。にゃんにゃんもいいですが、わんわんのもふもふも堪能したいです。リリィはどう思うです?」
「私は、どちらかというと小型犬のほうがかわいくていいと思います。姫様、ピウスという犬さんはどのくらいの大きさなのですか?」
「それはもうすっごく大きなわんちゃんなのです。洞窟にいるからまだ背中には乗ってませんが、すぐに使い魔にして陽の下に出て背中に乗せてもらおうと考えています。みなさんもおっきなわんちゃんの背中に乗りたいですよね!?」
「「「もちろんですっ!」」」
重なった声のひとつにアルマがいる。彼女もケルベロス見たさについてきた。
ギルドマスターの暁は来なかった。彼女は動物に避けられる体質がゆえ、モンスターといえど動物に、それもこれから友人の使い魔になろうという動物に近づくわけにはいかないと身を引いた。
残念なことに楽園ティーパーティーにはプリマとバストは参加してない。プリマが暁を本能的に怖がってしまうからだ。
おいしいスイーツを食べながらプリマをもふもふにゃんにゃんしたかった……。
丘を下ると洞窟が見える。ちょうど我々がティーパーティーをしている真下。丘の下り坂が洞窟を囲うようにぐるりと取り囲んでいるので、洞窟とその周囲に影ができて直接日光が当たらない構造になっている。
洞窟の入り口には巨大な三頭の犬。ではなく、一つの胴体に三つの首が繋がったケルベロス。本当に首が三つある。
しかもデカい。地獄の番犬と言われても納得の巨大さである。
だけど、待ち焦がれた主人を迎えたい気持ちでいっぱいのケルベロスからは威圧感どころか、忠犬のそれに近いかわいらしさと親しみやすさを感じた。
「ピウスっ! また会いにきましたわ。これからみんなで三日月岩に咲くスタァホワイトを採取してきますので、それまであと少しの辛抱です。わたくしの使い魔になったら、太陽の下で思いっきり走り回りましょうっ!」
『太陽の下を歩けるだなんて……本当に、本当なんだよね?』
「ええ、もちろんです!」
ッ!
本当に頭の中から声が聞こえた。
これが神通力というやつか。不思議な感覚だ。
慣れたのか、姫様は神通力の感覚などおかまいなく、三つ首全ての頭に頬ずりしてなでなでしてもふもふする。
ちょっぴり羨ましい。
フェアリーたちもピウスの周囲を飛び回って前祝と言わんばかりの舞いを踊る。
なんて愛らしいんだ。
そうと決まれば全力で姫様の手伝いをしなくてはならない。
気持ちを同じくするのは私だけではない。
未知との遭遇に怖れた者、興味本位でついてきた者、使命感を携えた者、そして大きな三つ首のモンスターを飼うことに否定的だった者。全員がナチュラルに手のひら返しを繰り出し、ピウスと我らが姫様のために尽力することを誓う。




