異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 33
楽園。
それは花々に囲まれ、リーフグリーンとスカイブルーの世界が広がるカラフルな世界。
モニュメントのように聳え立つ三日月の形をした岩が太陽を包む。
「あぁ~~~~久しぶりに食べすぎた。サマーバケーション以来だ」
「それ、結構最近では?」
的確なアルマのつっこみに答えるより先に、同伴した暁が私の気持ちに同調した。
「あたしも久々に腹八分目を越えました。次から次へとおいしそうなピッツァが焼かれるのですから、ついつい手が出てしまいますよね。干し柿を使ったピッツァは意外性があって、チーズの塩味とコクと、干し柿の甘さと渋みが上手にマッチしてました。シェリーさんのイチオシはチーズとはちみつのピッツァですか?」
お腹いっぱいの暁が気持ちよさそうに大地に背を預ける。
私も彼女に倣い、大地に背を預けて空を臨む。
「チンクェ・メェーレ・フォルマッジは最高だった。私が食べてきたどのピッツァよりおいしかったよ。秋野菜を使ったピッツァも絶品だった。梅干のピッツァも面白い味だった」
「いろんなピッツァが食べられて満足です。フェアリーたちもお腹いっぱいになってお昼寝してしまいましたよ」
「えっ! わぁお♪ 寝顔がプリティ!」
大地に寝転がって緑の中に埋もれ眠るフェアリーたちの無垢な姿に心打たれる。
母親やシスターは子供の寝顔を見てこんな感情を楽しむのだろうか。
あぁー、子供欲しいなー。
全力まったりモードを満喫。すると空に陰りが現れる。
姫様が私たちを覗き込む。
「まったりタイムもいいですが、三日月岩に咲くスタァホワイトを摘みに行きましょう! 早く早くっ!」
体を起こし、姫様を見上げ、三日月岩を見上げ、もう一度姫様に向き直る。
「どう見ても専用の登山道具がないと登れないと思うのですが」
「そこはメリアローザの魔法技術と、サンジェルマンさんの知識と経験でなんとかっ!」
姫様はどういうわけか、どうしても自分の手でスタァホワイトを採取したいみたい。
気持ちは分かる。とっても香りのいい花だった。それに、スタァホワイトのアロマオイルはモンスター除けに使えるという。獣に効果があるのなら、ベルン側の世界に現れる魔獣にも効果があるかもしれない。
ぜひとも採取したい。
しかし!
「姫様の意見を尊重したいところではありますが、わざわざ貴女が採取しに行く必要性はないと思いますが?」
サンジェルマンさんが至極当然の質問を繰り出した。
姫様は何かに気付いた顔をして沈黙。数秒して、シャルロッテ姫様らしい感性が飛び出す。
「わたくしは登山を経験したことがありません。なので、山登りをしてみたいんですっ!」
「それではベルンに戻って、まずは初心者コースから始めましょう。なにごともステップアップが大事です」
サンジェルマンさんから正論を突きつけられた姫様の表情が強張る。
そこまでして自分で採取しに行きたいのか。好奇心旺盛なのはよい傾向なのだけど、危険が伴う行動は慎んでいただきたい。
護衛の心、姫知らず。シャルロッテ姫様はぷりぷり体をくねらせていやいやを炸裂させた。
「絶対に、絶対に自分で採取してみたいんですっ! 摘んできてもらったものと、自分で採取したのとでは違うんですっ! 登山したいっ! 高いところから世界を見てみたいっ! ケルベロスを使い魔にしたいっ!」
「えっ、今最後なんて言いました?」
「――――――――スタァホワイトを……栽培してみたい…………」
一瞬がとても長く感じた。
やっと口を開いたのはアルマ・クローディアン。
「ケルベロスを使い魔って言うと、楽園にいるという三つの首を持つ大きな犬のことですか? さすがに無理では? 個人的には超興味ありますがっ!」
前のめりになる魔法大好きっ子を暁が制して姫様に向き合う。
当然、めっちゃ怖い顔をして。
「姫様がもふもふわんちゃん大好きなのはわかりました。ですが相手は異形のモンスター。合わせるわけにはいきません。そういう魂胆でしたら、今すぐにメリアローザに帰還します」
相変わらず怒った時の暁の圧と顔が怖い。
仁王立ちにはものすごい貫禄を感じる。
これを見た姫様が逆切れ!
「あの子は悪い子じゃないんですっ! 悪神の謀略の被害者なんですっ! そのせいで彼は太陽の下に出られない呪いを掛けられてしまったんですっ! でもその呪いは主を得ることで解かれるんですっ! ピウスに主と認めてもらうためには、わたくし自身の力でスタァホワイトを採取しなくてはならないのですっ! だからどうかお力を貸してください!」
姫様の魂の言霊が楽園中に響き渡る。
いろいろとツッコミたいことがあるので、ティーパーティーをしながら事情を説明していただきましょう。




