異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 30
ピッツァを食べ終わって、さて次の皿を貰う前にサラダかなにかを食べたいな。
テーブルを見渡すと新鮮野菜とオイル漬けチーズのサラダがある。適当に取り分けてベレッタたちのところへ戻ると、入れ替わりでフェアリーたちが来訪していた。
話題はダンジョンにある【楽園】と呼ばれる場所のこと。
ローズマリーは何度か訪れて、楽園のような景色が気に入ったという。
「カラフルなお花が景色一面に咲き乱れて、蝶々とかバッタもいて、風もふんわり流れて気持ちいいの。みんなと一緒にピクニックに行きたいな♪」
「それはぜひとも行ってみたいな。でもダンジョンにはモンスターが出るんじゃないのか?」
「大丈夫っ! ハニカムウェイにいる恐竜さんたちが嫌がる匂いのする匂い袋を作ったから、これを持って飛べば安全なのだっ!」
フェアリーには大きなサイズのお守り袋をライブラから取り出した彼女は匂い袋を差し出してくれる。
どんな香りがするのだろう。モンスターが嫌がるということは刺激臭がするのかな?
「すんすん。百合のような華やかさとまったりとした甘い香りがする。これはとても素敵な香りだね。調合したものなの?」
聞くと、ローズマリーは楽しそうにくるくると宙を回ってかぐわしい香りの正体を語ってくれる。
「これはねー、楽園の三日月岩のたかーいところにだけ咲く、スタァホワイトっていう真っ白なお花の香りなの。太陽が出る時間だけ咲いて、夜になると花びらを閉じてお休みするんだ。その姿がお星さまみたいだから、スタァっていう名前をもらったんだって!」
「それは素敵なお花だな。冒険者の誰かが名付けしたのかな?」
「ううん、名前を付けたのは首が三つあるおっきな犬さん。お日様の下に出られなくて、日光に当たると体が燃えて灰になっちゃうの。だからスタァホワイトが花びらを広げた姿を見たことがないんだって。逆に私たちはお日様が沈むと寝ちゃうから、まだ花びらを閉じた姿は見てないんだ」
「首が三つあるおっきな犬さん…………? えぇと、それを取ってくればセチアの家で一輪挿しを楽しめるな。そうすれば、陽が沈んだあとの花びらを閉じたスタァホワイトが見れるかもしれない。少しだけ、眠気と戦ってもらわないといけないかもだけど」
「取ってきてくれるの!?」
「ちょっと待ったぁーーーーッ!」
振り返ると、そこにはシャルロッテ姫様が姫様とは思えない形相でピッツァを頬張る姿があった。
絶句する我々に気付き、口元を整えて、飲み物を飲み、呼吸を整えてようやくやってきた。
「わたくしもそのお花に興味がありますっ!」
「ず、ずいぶんと食いつきますね。なにかあったのですか?」
「えっ? えっと、それは、えっとぉー……わたくしもダンジョンの、とりわけ楽園エリアに興味があります。わたくしもみんなと一緒にピクニックに行きたいですっ!」
「なにか、ちょっと怪しいような…………?」
「そ、そんなことありませんわっ!」
露骨に目を逸らされた。なにか隠し事でもしてるのだろうかと疑ってしまう。いつもなにかと外に出たがるお姫様。本当にピクニックだけが目的だろうか?
疑いの眼差しを向ける私と姫様の間にインヴィディアさんが割って入った。
「彼女はお姫様だから、危険なところへは行けないでしょう? だから自分だけおいて行かれるんじゃないかって心配したのよね?」
「そ、そうですよっ! のけものにしようったってそうはいきませんからねっ!」
「いえ、そんなつもりは決して。安全さえ確保できれば、みんなでピクニックに行きましょう。できればスタァホワイトの採取にも挑戦したいですね」
「それはぜひともっ! こんなに素敵な香りがするんです。きっととっても綺麗な花に違いありません!」
姫様の圧力に屈する形で私も暁も了承。くわえて言えば、暁は獣に嫌われる体質。これを利用すればモンスターに襲われる心配もない。
小動物も近寄らなくなるけど。
「そうと決まれば善は急げです。ランチのあとに速攻向かいましょう!」
「え……もう少しゆっくりさせてください。モンスター討伐が想像以上にたいへんだったので」
「えっ? あ、はい」
すみません、姫様。内心もうほんとに疲れてるんです。
午後の予定が決まったところでランチに戻ろう。




