異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 28
「――――リーさん。シェリーさん、今、お時間よろしいでしょうか?」
名前を呼ばれ、ふと我に返った先には小柄な少女がいた。
ギャップが激しすぎて脳がバグってしまう女の子。五十嵐詩織が隣に座る。
「カトブレパス討伐、ご苦労様でした。シェリーさんたちのおかげでモンスター討伐を終えられました。本当にありがとうございます」
えっ……ちょっと待って。誰だ、この子?
屈託のない爽やかな笑顔と丁寧な言葉遣い。相手の気持ちを慮った心遣いには高尚な徳すら感じる。
呪いの防具を装着する前の五十嵐詩織……だよな?
「え……っと、詩織もご苦労様。君がカトブレパスを引き付けてくれたおかげでレオさんが助かった。ひいては討伐に繋がった。心から礼を言うよ。本当にありがとう」
感謝を贈ると、彼女は感極まって瞳に涙を浮かべてお礼を返す。
「とんでもございません! それより、戦略だったとはいえシェリーさんに攻撃を防いでいただきました。私に満足な防御力があれば、自身でカバーするのですが……攻撃を肩代わりしてもらってすみません」
「いやいや、ヘイト受けは私の仕事だ。むしろきちんと攻撃を受けるように立ち回れなかった私の落ち度が招いたことだ。気にしないでくれ」
「シェリーさん……! なんて謙虚な!」
感涙するところ悪いが、彼女は今まで私が見てきた五十嵐詩織なのだろうか?
彼女と言葉を交わしたのは主に四回。
以前、夕食に蕎麦を食べた時と翌日の焼肉の際。そして今日の討伐と、今のランチ。
そのどれも、まるで別人のような話しぶり。態度も違う。四重人格なんじゃないだろうかと疑うレベル。
暁にこそっと聞いてみるか。
「なぁ、暁。話すたびに詩織の性格が違って見えるんだが、私の思い違いだろうか?」
「それについてはまたあとで説明します」
「……………………頼む」
心当たりがあるのかよ。
まさか呪いの防具の副作用じゃないだろうな。
心中に波立つ不安を深呼吸で整えて、姫様たちの隣に移動しよう。
彼女は異世界間を繋ぐ大使として、公務として旅行という名の仕事に来た。まだ三日目ではあるが、なにを見て感じたのかを聞いてみたい。
「お隣、よろしいですか?」
「今はダメですっ!」
露骨に拒否された。
シャルロッテ姫様とリリス姫の間に双子が囚われている。
キキとヤヤは我々よりも先に里帰りをし、友人宅に泊まったそうだ。今はその話しと紅葉狩りの話しを楽しむという。
私も話しに混ぜてくれればいいのに……。
寂しさを胸に仕舞い、他の島を探して旅に出よう。




