異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 24
せかされるままに露天風呂へ入ると、湯舟に見知った背中が3つある。
「あれ? 姫様たちもお風呂に入ってらっしゃったんですね」
「え!? シェリー騎士団長? どうしてここに?」
「あ、先に体を洗いますので、少々お待ちください」
シャルロッテ姫様とリリス様、護衛役のインヴィディアさんの三人が仲良く並んで湯舟に浸かる。
てっきりどこかでランチを食べに行ったのだと思った。
さっと体を洗って三人のところへ行く。せっかくなので、午前中のこととこれからの予定を聞こう。
「今日はフラウウィードでスイーツを食べたんですか?」
聞くと、姫様は一瞬視線を逸らして向き直った。
「え、えぇ! フラウウィードにスイーツを食べに行きました。ハーブティーも絶品で、とても素敵な時間を過ごしました。シェリー様たちはモンスター討伐に行かれたのですよね? とても強いモンスターとのことでしたが、お怪我はありませんでしたか?」
相手のことをまず先に考える。良き女王の素質をお持ちのようで嬉しいです。
「ええ、仲間のおかげで無事に討伐に成功しました。毛皮もしっかりと入手しましたので、あとで暁に報告する予定です。毛皮もそうですが、ダンジョンには未知の素材がたくさんありますので、ベルン騎士団の一部を派遣してダンジョン塔破に貢献するのもいいかもしれませんね」
「ダンジョン塔破にベルン騎士団を派遣!? そ、そうですね。魔法技術に関してベルンからメリアローザに貢献できることは少なそうですし、科学技術についても相当な数を取捨選択することになると思います。人員の派遣でダンジョンの塔破を提案するのはいいアイデアだと思います。問題は塔破した時のインセンティブの在り処ですが、そこは交渉の必要がありますね」
一瞬困ったような顔を見せた?
騎士団員を派遣して、なにか不都合か不安要素があるのだろうか。
あるとすれば姫様のおっしゃった通り、ダンジョンの階層を塔破した者に利権が与えられるというところ。それを目当てにダンジョンの塔破を目的にする冒険者は多い。
さすが姫様。遊び惚けていると思いきや、抑えるところはきちんと抑えてらっしゃる。
「おっしゃる通りです。お互いに利益になるように調整しなくてはいけません。姫様にはメリアローザを見て、触れて、感じて、どんなものがあったら人々のためになるかを考えていただければと思います」
「そのためにはっ!」
身を乗り出して話しを切ったのはリリス姫。
瞳を爛々と輝かせて願望をむき出しにする。
「逆に我々メリアローザ側の世界の住人も、ベルンに行ってどんなものがあるのか、なにができるのか、ベルンに必要そうなものがなんなのかを見て知って感じなければなりませんね!」
水しぶきをあげたリリス姫の肩をインヴィディアさんが優しく抑えて押し返す。
「それは貴女が異世界旅行に行きたいだけでしょう? まずはメリアローザが。その次はメドラウトよ?」
「ちょっ! インヴィディアさんだって異世界に行きたいだけじゃないんですか!?」
リリス姫に迫られて、インヴィディアさんは小悪魔スマイルで頬に手を当てる。
「それもあるけど、単純に異世界の技術を輸入したいわ。暁ちゃんに教えてもらった紙の作り方も異世界のものだから。きっともっと凄い技術があるに違いないわ。メドラウトが1000年かけて想像もしなかったような技術が! はぁ~、憧れるわぁ~♪」
「きっと驚く物ばかりだと思いますよ。リリス姫もインヴィディアさんも大歓迎です。ぜひ、予定を合わせてお越しください」
「ええ、近いうちに必ず」
近いうちに。
これを聞いたシャルロッテ姫様が念のためにと確認をする。
「インヴィディアさんの『近いうちに』っていうのは…………?」
姫様の質問に、インヴィディアさんは小首をかしげて悩む。
昨日のクラリスとの一件を引きずって、正しい答えを導き出そうと真剣に考える。悩む時点でどうかと思うけど。
必至に悩んで出した答えが……
「――――明日?」
「極端すぎます」
「こう言っては申し訳ありませんが、1000年の間、なにをしてたんですか?」




