異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 23
バラ園にはスイーツショップもカフェもない。持ち込み可なのでフラウウィードに立ち寄ってからバラ園に行こう。
体はへとへとでも心は元気になった。
フラウウィードのカフェに駆け付けた私たちのボロボロの様子を見たメルティはドン引き。
「みなさんボロボロですけど、どうしたんですか!?」
「大丈夫。ダンジョンにモンスターを討伐しに行っただけだ。それより、4人分のハーブティーとクッキーを頼む」
「あ、そ、そうですか。ご苦労様です。それはいいんですが……」
メルティは私たちの泥だらけの姿を見て再びドン引き。
「さすがに身なりを整えてからお越しいただきたいなー……と、思うのですが…………」
「――――すまない」
どうやら自分で思う以上に疲労がたまっているようだ。
泥だらけの服のままカフェに来てしまうとは、一生の不覚!
仕方ない。スイーツとティータイムは後回しにして、フェアリーたちの寝顔を脳裏に焼き付けに行こう。
やって来ましたバラ園。秋に咲く大振りのバラがぽつぽつと咲く様は、咲き乱れる春の景色と違っておしとやかな印象を受ける。
メルティにはちょっと嫌な顔をされたものの、クッキーだけは手に入れた。これを持ってフェアリーの笑顔を見よう。
どこだ。どこに行ったんだ?
あ、セチアが庭の手入れをしてる。彼女に聞いてみよう。
「セチア、手入れに精が出るな。ところでフェアリーがバラ園でお昼寝してるって聞いたんだけど、どこにいるのか教えてもらえないだろうか」
「それでしたら、さっきまでこちらでお昼寝してましたよ。お昼からは暁のところに遊びに行くということでした」
「なぬっ! もういないのか。暁の場所を教えてもらってもいいだろうか」
「それは構いませんが、その前にお風呂に入られたほうがよろしいのでは……?」
「う、ん……そうするよ。邪魔してすまない」
そんなにひどい見た目だったか。
仕方ない。風呂に入って体を洗おう。
そのついでに食堂に……いや、この格好で食堂に入ったらアイシャに殴られるかもしれない。腕を握っただけで骨折する握力の持ち主に殴られたらガチで顔面崩壊しかねない。迂回して風呂場へ向かおう。
お昼時に風呂に入る人は少ないだろう。そう思っていた。が、冒険者は午前中に討伐任務をこなし、風呂に入って昼食にありつく人がほとんどである。
「すごい混んでる……」
今までは仲間内でしか一緒に入ったことがなかった。
だから裸でも気にしなかった。
だけど、見ず知らずの人に裸を晒すというのは、どうも、こう、恥ずかしいというか、なんというか、言い知れない羞恥心に襲われる。
人の目を気にしていても、他人はたいして自分に興味などない。そんなことは分かってる。分かっていても、難しいことってあるじゃない?
「どうした、シェリー。さっさと風呂浴びて飯にすんぞ」
意外にも、超意外にもクロが私の名前を憶えていた。
マジか。興味のないことに関して超無関心の彼女が、私の名前を覚えた。どうやら彼女に認められたらしい。それが少し嬉しくて、少しだけ勇気が湧いてきた。
「いい大人がなぁにもたもたしてんだい! あとがつかえるんだからさっさと入りな!」
次は番頭の紫に発破をかけられた。
こんな姿を後輩たちに見られたら示しがつかない。
さっさとお風呂に入ってランチにしよう。




