異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 22
「なんでさっき私を狙ったんですかッ!? 私の特殊技術で助けてあげたじゃないですかッ!」
詩織がぷりぷり怒る。
彼女にはなにが起きたのか分からなかったのだ。
レオさんは人がいいから困ったような顔をして弁明を始めた。
「ごめんごめん。でもカトブレパスを倒すにはああするしかなかったんだよ。最初の弾丸が弾かれて真上に飛んだでしょ? それが落下するのに合わせて銃弾を発射したんだよ。落ちて来た銃弾を弾いてカトブレパスの急所に当てて倒したんだ。で、その延長線上に詩織ちゃんが居たってわけ。びっくりさせてごめんね」
「ぷぅ……まぁそういうことなら、いいんですが……っ!」
そりゃ銃口を向けられたら驚くよね。それは仕方ない。
でもカトブレパスの想像を超える攻撃をしなきゃ倒せなかったのもまた事実。
理解のある詩織は不貞腐れながらも、今日の晩御飯の話しに移る。
「今日は御馳走にしてもらいましょう。ステーキ&ステーキです♪」
「それだと栄養バランスが悪すぎるぞ? 野菜もしっかり食べような」
「はぁーい……」
すごい嫌そうな返事が返ってきた。
小さな少女の不満そうな顔を見ると修道院の子供たちを思い出す。月一の訪問のあと、帰り際に決まって呼び止められるのだ。
抱き着いて足止めに走る子を見ると、切なくもあり嬉しくもある。彼女たちの表情を思い出したせいか、私は詩織を抱き寄せて頭を撫でていた。
「よく頑張ったな、詩織。君のおかげでカトブレパスを倒すことができた。本当にありがとう」
「私の、私のおかげですか? 本当ですか!?」
「ああ、もちろんだ。帰ったら暁に頼んで御馳走にしてもらおう」
「よぉぉぉおおおおおしゃあああああああああああああああッ!」
天に吠えた詩織の言霊に、森にいるカトブレパスがどういうわけか殺気全開で猛進してきた。
地鳴りにより地は揺れ、崖は崩れ、森の奥から黒い塊が現れる。
「「「逃げろッ!」」」
♪ ♪ ♪
あのあとは大変だった。
殺気を向けられて腰の抜けた詩織を担いで全力疾走。
カトブレパスの群れに楽しそうに嬉しそうに突っ込もうとするクロにレオさんが手刀を入れて気絶させて担いで全力疾走。
サンジェルマンさんは女の子のお尻見たさにわざわざ最後方を陣取って走る始末。
そうして全力ダッシュでメリアローザに戻る頃には息は切れ、サンジェルマンさんにブチ切れたい気持ちを抑えるために必死に深呼吸をして心を落ち着かせる。
討伐したサンジェルマンを――――間違えた。討伐したカトブレパスの毛皮はサンジェルマンさんが採取してくれた。それをさっ引いても怒りが収まらない。
はぁ……モンスター討伐がここまでたいへんなものだと思わなかった。
前回はライラさんがいたからベヒーモスを一撃で倒せた。攻撃力は高くとも、防御力がそこまでじゃないミノタウロスだったから討伐は苦じゃなかった。冒険者も慣れた手練ればかりだった。
あらためて冒険者の凄さを思い知った数時間だった。
はぁ……とても口にはできないが、もうなにも考えたくない。
「シェリーさん、ご苦労様でした。カトブレパスの毛皮のなめしと報告書の手続きなどは私が処理しておきますので、みなさまはゆっくりなさっていてください」
「ありがとう、桜。本当に助かるよ。ん? あれは……姫様!?」
気のせいか。今、姫様がダンジョンから出て来たような?
あぁ、そうか。フラウウィードに行ってたのかな。それかバラ園でお茶を楽しんでいたのだろう。
「シャルロッテ姫様? どうしてこんなところに?」
聞くと、どうやらバラ園でティータイムを嗜んでいたようだ。
しかも今はフェアリーたちがお昼寝中だという。バラの花のベッドでお昼寝。ぜひとも見ておかなくては!
そうだ。労いも兼ねて詩織に声をかけよう。
「詩織、よかったらひと休みしないか……って、あれ? いないな」
「詩織さんなら暁さんに報告があると言って出ていかれましたよ?」
「そ、そうか……それでは仕方ないな。サンジェルマンさん、レオさん、クロ、スカサハ、桜、みんなでバラ園に行かないか? フェアリーがバラのベッドでお昼寝してるそうだぞ!」
ぐったりと疲れ切ったサンジェルマンさんは私の提案で元気を取り戻した。
クロの不機嫌を払拭しようと試みるレオさんも賛成。クロはカトブレパスを討伐したレオさんの力を認めたのか、彼の言うことを聞いた。よかった。これでベルンの平穏は守られる。
スカサハと桜は行くところがあるらしく、残念ながらここで離脱。彼女たちにも感謝の気持ちを伝えたかったが、それはまた少しあとの楽しみにとっておこう。
「それでは、フェアリーの待つバラ園へ行きましょう!」




