異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 19
五十嵐詩織。案内役の彼女はこの森に精通している。なにか策があるのか。もしや、ナチュラルトラップでもあるのか?
罠があるならそこまで移動しなくてはならないが、やむをえん。
彼女だって一応は冒険者。パワードの魔法と呪いの甲冑を着てここまで来た。なによりカトブレパスの毛皮を調達したということは、こいつの倒し方を知ってるはず。
「詩織、どうすればいい?」
「私がカトブレパスの注意を引きます。そうすると、私めがけて猛突進してくるので、私の前に出て守ってください! そこで足止めすれば動きを止められるはずです!」
「分かった! 魔法を掛けたらすぐに私の後ろに隠れてくれ!」
「はっ、はいっ!」
レオさんとサンジェルマンさんにも合図を送って体勢を整える。
クロは相変わらずいたずらに攻撃を――――ひたすらにカトブレパスの体力を削り続けた。
クロを自由に戦わせ、間隙を突いてサンジェルマンさんが補助的攻撃を加える。
レオさんが一撃必殺のタイミングを見計らう。
問題は私の挑発が一度しか効かったことだ。カトブレパスは挑発がほとんど効かないうえ、私が攻撃にくわわらないと知ってガン無視しやがる。
それほどの魔法耐性と賢さを持つ相手に、詩織は注意を引き付けられるという。
いつか彼女は言った。
『私をベルン騎士団員にスカウトしてくださいっ!』
不安だ。
不安だが、このままでは埒が明かないのもまた事実。
彼女に賭けてみるのも悪くない。
タイミングを合わせて、いち、にの、さん!
「頼むぞ、詩織!」
「任せて下さいッ! はぁ~~~~~~」
大きく息を吸ってカトブレパスを睨む。
彼女はあらん限りの声を張り上げ、カトブレパスを――――嘲笑した!
「ブヒブヒと臭ぇーんだよ、このボケ牛野郎ッ! 散々毒なんかまき散らしやがって、そこらじゅう腐らせてなにがしてぇんだよ! 自分の毒でさっさと死ねや、ド腐れ豚野郎ッ!」
「「「「「ッッッ!?」」」」」
五十嵐詩織。
見た目は世間知らずの無鉄砲な少女。
それが、まさか、そんな汚い言葉を使ってモンスターを挑発するとは……。
というか、モンスターに人語が理解できるはずがない。
驚くべきことに、彼女の言葉に魔力も、魔法も込められていない。
これではただ単に罵詈雑言を吐き捨てただけ。
謎すぎる。
異世界人だから我々の常識が通用しないだけか?
いや、彼女以外は私たちの常識の範囲内にいた。
私も、サンジェルマンさんも、レオさんも、クロでさ呆れて時間が止まった。




