異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 13
『…………もう行っちゃうの?』
「やっぱりもう少しいるっ!」
ふさふさの首元に抱き着いてしまう。
だってそんなこと言われて瞳をうるうるされたら離れられないじゃないですかっ!
「シャルロッテ姫様、時間は有限ですよ? それにそろそろお昼ですので、ランチにしませんか?」
「わたくしはここに居ますので、わたくしとピウスのランチを持って来てくださいますか?」
「それは無理です。さすがにバレてしまいます」
「そこをなんとか!」
「できません♪」
「がーん! そんな……。できうる限り、私の要望を叶えてくれるはずじゃなかったんですか!?」
「できうる限りの範疇を越えました。今日はこのくらいにしておきましょう。そろそろ戻らないと詮索されかねません」
「ぐ、ぐぬぬ……」
あんまり詮索されても困る。人が三人、街からいないんだ。しかも旅行客。いないと気付かれるとあとあと面倒になる。
こんな時、替え玉のジェイクがいれば私の分身を作ってくれるというのに!
ちくしょう!
後ろ髪を引かれながらゲートに戻る。楽園は遠ざかり、地獄のように感じる森林エリアを通ってメリアローザへ帰った。
帰ってしまった。脳裏には悲しそうにするピウスの姿がある。一人ぼっちにしてしまった。今すぐにでも戻って抱きしめてあげたい!
「姫様、気持ちは痛いほどわかりますが、ここは我慢です。彼は幾百年の孤独に耐えたのです。きっと大丈夫ですよ。信じてあげましょう」
「うぅ~~~~っ! ブーツと手袋とピッケルを買いに行きましょう!」
足早にダンジョン入り口を抜けてエントランスホールに出た。するとぐったりとしたベルン一行がいる。足首まで泥でどろどろ。どこか沼地にでもピクニックに行ったのだろうか。
リリス姫に裾を引かれていることに気付かず、どうしたんだろうと身内を呆然と眺める私の前にシェリー騎士団長が気づいた。
「シャルロッテ姫様? どうしてこんなところに?」
あ、やべえ。
「え、っとぉ……」
「ちょうどそこの薔薇園でフェアリーたちがバラの花のベッドでお昼寝してて、少しだけ寝顔を盗み見してたの。このことは内緒にしておいてね♪」
インヴィディアさんのナイスアシストが炸裂!
シェリーさんの意識がフェアリーに向かう。
「なんと。そうなんですか。今もまだお昼寝中ですか?」
「さっきまではそうだったけど、今はもう分からないわ。見に行くなら早い方がいいわ」
「教えてくださってありがとうございます。姫様、少々失礼いたします」
そう言ってシェリー騎士団長は乙女の顔をして嬉しそうエントランスをあとにした。
インヴィディアさんの機転の速さと的確さが凄いを通り越して怖い!
薔薇園にフェアリーがいなくても、去って行ったで辻褄があう。彼女たちが昼寝していたかどうかを周囲に聞いて回る理由もない。彼女たちに事実確認するのも筋違い。シェリーさんがインヴィディアさんの嘘を見抜くことができる可能性はゼロパーセント。
すごい。
これは見習わなくては!
「シャルロッテ姫様、ある程度の賢さは必要ですが、今のは参考にしなくていいですよ?」
どうやらマネしようというのが顔に書いてあったようだ。
これからはポーカーフェイスを心がけよう。
長居は無用。他の人たちにこれ以上つっこまれるのも面倒だ。
ここはさっさとずらかるぜっ!




