異世界旅行2-3 待ちわびた時は眩しくて、遂に出会えて嬉しくて 9
さて、スキンシップはできた。小さい音だったけど甘え声っぽい鳴き声が出たということは、なでなでは合格点だったみたい。
手早く本題へ行こう。早く背中に乗って疾走したい。
「もしよろしければ、わたくしの使い魔になってくださいませんか?」
つぶらな瞳に問いかける。六個もあるとどれを見るか悩んでしまう。ひとつだけ見続けると、他の二頭をないがしろにしてるのではないかと思われそう。でもあんまりきょろきょろするとバツが悪いので一点だけを見つめよう。
数秒、返答を待っていると、頭の中で声が響いた。幼い少年のような柔らかく透き通る声。
『君は、僕と共に居てくれるのかい?』
彼がまっすぐに見つめて問いかける。
なんてことだ。意思疎通ができる!
「ええ、わたくしは貴方と家族になりたいです!」
『…………家族』
呟いて、彼はどこか寂しい表情になった。ひと呼吸おいて天に吠えた。三頭全て、洞窟から見える空に向かって声高らかに叫ぶ。
歓喜か、恐怖か、新天地を夢見る前の興奮か。
叫び終えると、真ん中の首が私の顔を見て言った。
『残念だけど、それはできないんだ』
「どうして? なにか理由があるの?」
『僕は…………太陽の下に出られない』
「そんなっ!」
そういえば、地獄の番犬ケルベロスは陽の光に当たると溶けて死んでトリカブトになったって伝説があるんだっけ。あの伝説は本当だったのか!
いや今はそんなことはどうでもいい。
なんとかできないだろうか。体質なのか、呪いなのか。
「呪いならなんとかなるかも! インヴィディアさん、鑑定よろしくお願いします!」
「たしかに呪いがかけられてるみたい。でもこれは私では解けないわ。とてつもなく強力な、それこそ神の御業と言うべき呪いがかかってる」
「神の御業! 神様が呪いをかけたの!? どうして?」
『それは……』
曰く、彼の両親は悪神に騙され、善神との闘いに駆り出された。
悪神は討たれ、騙された両親も死んだ。そして残された子に罰が及んだ。両親が神に一太刀を浴びせてしまったがゆえ、子は幼くして奈落へと幽閉されてしまう。
これを哀れに思った獣の神が善神に嘆願し、刑を軽くしてもらった。
『楽園のような世界にて、陽の下に出ること叶わず』
そうして彼はここにいる。呪いをかけたのは獣の神。慈悲深き獣の神は強力な呪いを逆手にとり、これに制約を設けた。
『太陽の光に触れると身は焼け爛れる。しかし、真に使える主を得たなら、呪いは解かれるだろう』
ケルベロスの言葉を聞いて、インヴィディアさんが郷愁を想う表情になる。
「解呪の条件を制約として用いた呪詛ね」
「かいじゅのじょうけんをせいやくとして用いたじゅそ……?」
インヴィディアさんの難解な言葉に頭が追い付かない。詳細な説明をいただきたい。
「呪詛ってつまり、相手を呪うことでしょ? 呪う側からしたら解呪されたくないじゃない。でもあえて解呪の条件を設定することで、呪いをより強力なものにする。マジック・プロテクターって言えば分かるかしら。太古の魔法に連なる系譜の魔法技術のひとつね」
「マジック・プロテクター。オールドマジック。最近どこかで聞いたような。獣の神っていうのもどこかで……まぁいいか! つまり、わたくしが彼の主になれば呪いが解けるのですね。簡単じゃないですか!」
なんだあっさり解決じゃない。
そうと決まれば早速、使い魔の契約をしなくっちゃ。




