異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 56
パニックとクラリスに対する罪悪感で頭の回らない私に代わり、異世界の学術都市の長であるヘラさんが的確な提案をしてくれる。
「それだったら、朝はモーニングコーヒーでおめめぱっちり。ランチとティータイムに関しては料理やスイーツでハーブティーにするかコーヒーにするかを決めて、寝る前にはリラックスできるハーブティーということでいいんじゃないかしら。少なくとも、覚醒作用のあるコーヒーは寝る前に飲まないほうがいいわね」
「分かりました。スイーツは全てハーブティーに合うものを用意します。可能であれば、コーヒーには合わないけどハーブティーとは抜群に合うスイーツが知りたいです!」
「コーヒーに親でも殺されたの?」
「コーヒーに義母さんを奪われましたっ! 私もう悔しくて寂しくて悲しくてっ!」
「そこまで患ってたのね。余計なことを言ってごめんなさい」
ヘラさんが一歩引いて苦笑い。
私はもう一度クラリスを強く抱きしめて、感謝の言葉を贈ろう。
「ありがとう、クラリス。私のことを愛してくれて。私も愛しているわ。貴女のことをないがしろにしてしまってごめんなさい。私は長く生きてきたけど、もしかしたら気づかないこともあるかもしれないの。だからこれからはもっと積極的に気持ちを伝えてくれると嬉しいわ。それと、できればストレートに言ってもらえると助かるわ。貴女は優しいから、今回みたいに回りくどくされると、ドギマギしちゃうから」
「あ、はい。わかりました。今度からはもっとストレートに想いを打ち明けることにします。それでは――――」
涙をぬぐった彼女はいつもの素敵な笑顔を見せてくれる。
そうして一歩引いて言葉を紡ごうとした。あらあら、さっそく大好きな気持ちを伝えてくれるだなんて嬉しいわ。
飾りっけなく、シンプルに、ストレートな言葉はその人の心の底から湧き出る言葉。本心に触れられたようで嬉しくなる。
柔らかく身構えて愛する義娘の言葉を待つ。
「二度と料理はしないでください」
「ッ!?」
「インヴィディアさんの作る料理は不味いです」
「ッッッ!?」
「インヴィディアさんは料理が上手だと思っていらっしゃるようですが、死人が出るんじゃないかと思うくらい激マズなので、絶対に料理はしないでください。それこそ、メドラウトの沽券に関わります」
「ッッッッッ!?」
え、ちょっと待って。いやそんなはずはない。
自分で言うのも恥ずかしいけれど、料理は結構上手なはず。私の得意分野だと、自分で自分を褒めるくらい自信がある。
それを、不味いだなんて!
メドラウトの沽券に関わるレベルだなんて!
それはあり得ない。あり得ないわっ!
「前に料理を振舞った時だって、みんなおいしそうに食べてたじゃないっ!」
「そ、それは……」
狼狽するクラリスにスカサハの助け舟が出る。
私にとってはカローンが船頭を務める死への船出。
「今まで隠していて申し訳ございません。実はインヴィディアさんの料理は全て、文字通りの意味で闇に葬ってきました。あまりに楽しそうに料理を作って、振舞うものですから、みな言い出せなくて。でもよかったです。インヴィディアさん本人から、『ストレートに想いを打ち明けてほしい』という言葉が聞けて。いつ告白しようか、ずっとタイミングを見計らっていたんです」
「――――そ、そんなっ!」
みんな?
今、みんなって言った?
ということは、みんな私の料理が不味いって分かって、それでも私のことを慮って黙っててくれたの?
「うっ……うぅっ…………みんなに苦労をかけさせてしまって…………ごめんなさい……………………」
涙と、嗚咽と、寒気で体の自由がきかない。
周囲の人々が私を心配する声も、意識も遠くなる。
嗚呼、生まれてこのかた1000余年。今日ほど死にたいと思ったのは人生で二度目だわ……。




