夜空に願いて星を想ふ
お忍び散歩が無事に終わりました。
世間知らずのお姫様がこっそり街に飛び出す。
王道のパターンですね。バトル物であればそんなお姫様とばったり出会って賊やらなんやらを蹴散らして、ハートフルでラブなロマンスが始まるもんです。しかしこの物語はあくまで日常系なのでそんな展開にはなりません。
なりませんがギャグよりになるので下ネタが発生するという流れでした。
以下、主観【マーリン・ララルット・ラルラ】
何の気なしに声を掛けたのが始まり。まさかこんなことにまで発展するだなんて想像だにしなかった。
面白いものを作ってる子供に興味本意で足踏み揃え、縁が縁を結んで大宴会。
魔法にお酒においしい料理。楽しい笑顔に囲まれて、今日も夜空に星が瞬く。
最後のお仕事は訳あり2人をお家まで無事に送り届けること。
普通の女の子であれば、家の前で手を振るだけで済むのだけれど、困ったことにジュリエットはお忍びお姫様。
私は国外の人間で政治やなんやらとは無関係。
無関係だからこそ、彼女たちの心境を慮った大人たちの心情を語れるというもの。
そう、つまりお説教です。
ただのお説教ではありません。
飛び出したい気持ちは分かる。だけど、自分の身分を考えて下さいという、非常にプライベートかつ他人にバレると大炎上をまぬがれない案件。
空間移動で市中に転移させ、まずは個室でお話しできる場にご案内しましょう。
料亭・おいしい河豚屋さん。
完全個室制。隣の部屋とも離れてるから、ちょめちょめな話しをするのにもってこいの場所。内緒の恋バナ。仕事の愚痴。セクシャルなお悩み相談。
『そんなまさか、よりによってこの人とばったり会うことなんてあるの?』
だなんて最悪のハプニングが起こらないよう、あらゆる配慮のされた店。
会計から店の外に出るまでは他の客と鉢合わせないように気配りをしてくれる。
声が漏れないように個室の入口は二重扉。
化粧室は個室それぞれについてるという、なんでそこまでするのかと首をかしげたくなるほどのこだわりっぷり。
環境作りだけにとどまらず、メイン料理の河豚は完全養殖。
元々河豚は無毒。成長する過程でテトロドトキシンを含むバクテリアを食べて毒を溜めこむ。
完全養殖にして食事を管理することさえできれば、おいしい無毒の河豚が出来上がる。
天敵のいない養殖ならではの利点として、天然物より大きくなるとあっては養殖万歳と両手も上がる。
料理長はベルン生まれ。旅行の際、河豚料理に感銘を受け、倭国にある河豚料理の老舗へ20年も修行した本物の達人。
唐揚げ、フグちり、刺身にヒレ酒、なんでもござれ。
私も友人と会う際にはよく利用するお気に入りの場所。
今日のシメに軽く何かつまむついでに、大人たちのありがたーい御言葉を授けようというお姉さんの心遣いなのよ。
「今日は楽しかったね。キッチンのメンバーはどうだった? みんな楽しい子ばっかりで羨ましいんじゃない?」
意味深な言葉を使う。と、賢いお姫様はすぐに違和感に気づいた。
「んん? すごく楽しかったですけど、羨ましい?」
「はぁ…………姫様。もうバレてます」
「そういうこと。シャルロッテ姫、それからソフィア」
名前を呼ばれ、一瞬固まってぽかんと口が開いた。
どうやら本気でバレてないと、自信満々だったみたい。
「嘘でしょッ!? 変装だって完璧だし偽装魔法だって宮廷魔導士にだってバレないくらい鍛えたのに?」
「あまり大人をみくびらないほうがよいですよ。少なくとも、シェリー騎士団長様、ヘラ市長、そしてマーリンさんには看破されているでしょう」
「そんな…………でもでも、誰も咎めなかったじゃん。てことはもしかして」
キラキラした笑顔。呆れたことにお散歩が公的に許容されたと思ってらっしゃる。
なんでお姫様ってみんなこうなのかしら。
「まぁ私たちは貴女の心情を分かっているつもりだから、水を差すようなことはしなかったけど、今度からは許可取りをしてから出歩くようにして欲しいって。今回は万が一の事態に動けるメンツが揃ってたし、貴女たちを送迎したマルタが気付いてない様子だったから、他の人間には気付かれないだろうという情状酌量によって見逃されたということを忘れないように。あ、フグの唐揚げが来たわ。私、これ超大好き♪」
衣に下味がついてるフグの唐揚げ。歯応えがあって食べ応え抜群。
レモン汁をかけて、私より先にお姫様がぱくり。どうやら本気で反省する気はないようだ。
「うぅ…………まぁバレたのが大人の3人だけだし、見逃してもらえるならむしろ、知っていてもらってる方が動きやすい。あれ、これって僥倖なのでは?」
落胆したと思ったら、持ち前のプラス思考が炸裂。悪い意味で。
気を取り直して唐揚げを食べよう。
「少なくとも大人3人に暁、セチア、マーガレットちゃん、ヤヤちゃん、アルマちゃんたちには看破されたわ」
「ふふぇっ!? そんなにバレてたの!? 偽装魔法には自信があったのに」
「そんな魔法を得意にならないで」
デジャブがすごい。ベティちゃんと似てる。
「唐揚げおいしいですね。てっさと皮刺しを貰っていいですか?」
ソフィアは他人事のような振る舞い。諦めの極致に辿り着いたようだ。
「フレイヤは知ってる人ね。また今度ここに来ましょ。一応言っておくけど、今日のことは国王様、貴女のお父様に報告するってシェリーが言ってたわよ。まぁ職務上仕方ないよねぇ~。ヘラさんも今度見つけたら捕獲して送り返すって」
「なんでッ!? もうお散歩できないって言うの? 遊びに出られないっていうの? そんなのあんまりだわッ!」
机をばんばん叩いたと思ったら、落胆のあまり突っ伏して嘘泣きを始めた。
どうしてお姫様ってみんなこうなのかしらねぇ。
「気持ちは分かるけど、立場をわきまえてねって話し。ちゃんと許可があれば外出できるんだから、きちんと手続きをとってお越しくださいな、ってヘラさんが言ってたわ。ふふぅ~ん♪ 自分で作るヒレ酒もいいけど、他人が作るものは自分のとひと味違っていいわぁ~。職人の個性が出るよね」
「カンパリのグレープフルーツ割りを1つお願いしま~す」
「ソフィアは渋いところ行くのね。リキュールでも苦味酒なんて珍しい」
「さすがに単体だと苦味が強いので、おいしい苦味のグレープフルーツと一緒に割るのが好みなんです。自宅でも時々作るんです。てっちりが来るので、これでちびちびやりたいです」
「ほぉ~う、なかなかおしゃれなことをするのね。シルフィとは大違い」
自分のことを無視して酒に興じる私たちを見てふて腐れるお姫様。机をばばばんばんばん叩いて眉尻を上げる。
「もうっ! あたしはソフィアと一緒に、普通の女の子みたいにショッピングがしたいだけなんです。監視とかお付きとか、門限だって気にせず自由にしていたいんですっ! 私の話しをちゃんと聞いて下さいっ!」
「聞いてます聞いてます。もういい加減にしてください。残念ですが、わがままはここまでということです。せっかく個室に招待してくれたので、愚痴ならいっぱい聞きますよ。マーリンさんも私も、姫様の味方ですから」
ソフィアのお人好しなところはシルフィと同じ。
「そうそう。たまには思いっきり愚痴をこぼさないと。出来る大人は愚痴を言わないだなんて言うけれど、心に仕舞ったままだと骨まで腐っちゃうんだから」
「うぅ~~ッ! そんなに聞きたいなら思いつくだけ言ってあげます。えぇ、愚痴ってあげますともッ!」
それから時計の針の兄弟が仲良く夜空を見上げるまで、心の膿を吐き散らし、飲んで騒いで泣いて喚いて、疲れ果てては夢の中。1人で先に夢の中。
何も知らない一般人からすれば、なに不自由のない生活を送ってると思われがちな王族も、ふと見返せばただの人間。私たちと同じ人。あ、私は人間じゃないんだった。
ともあれ、自由もあれば不自由もある。そりゃ文句や不満もあるでしょう。
ましてや地位のある人間であれば、不自由と同居するようなもの。それが自分の意志で得た場所でなく、生まれた瞬間からべべちゃんこしてるとなれば、納得がいかないのも無理はない。
納得がいかなくとも、気の向くままに不自由から脱出できる彼女はとても幸せで、とっても贅沢なんだけどなぁ。
いかに自分が恵まれてるか。それを理解するには、もう少し世界を見て回る必要があるでしょう。
数年後か、それとも結婚してから視野が広まるか。でもまぁ、お忍び散歩にここまで本気を出して変装魔法を習得する努力と情熱があれば、いいお姫様になるでしょう。
幸せそうに酔いつぶれたお姫様を抱えて、できた侍女が私と大事な友達に、気を遣ってくれた人々に一礼する。
昔から本当に礼儀正しく誠実で、お転婆シルフィが育てた子とはとても思えないほどにおしとやか。
いや、気持ちの整理がついた頃の彼女と瓜二つと言った方が正しいだろうか。
ともかく彼女の忘れ形見の1人が元気にしてるようでなによりです。
さて、ソフィアに大切なことを伝えて、愛しの我が異世界へと帰るとしますか。
「マリーがスカーレット学園に来たっていうのは話したよね。《証》が浮いたらって言ってたけど、予定より早まりそうだよ。随分とお姫様に好かれてるみたいだけど、準備はしておいたほうがよさそうよ」
「……分かっています。シルフィお姉ちゃんの遺した言葉を知った時から、覚悟はできています」
「そう、それならいいのだけれど。でも心配だわ。貴女はシルフィに似てるから」
「褒めていただけるとは光栄です」
この子ったら、本当に。
「これは……愚痴よ。ごめんなさい」
「それでも、嬉しいです」
なんて純粋な視線だろう。
覚悟を、決めてしまったのね。
まるであの時の私みたい。
言葉を選ぼうとして、過ぎし日の思い出が蘇った。全てをかなぐり捨て、命を燃やして戦った。友の心を救いたいと、彼女の愛した娘を助けたいと、身を捨てようとした私に、大切なことを思い出させてくれた少女の涙。
もしかしたら、この子は私と同じ過ちを冒すかもしれない。そうならないために、そうさせないために、私も貴女の居場所になる。
「…………貴女の帰る場所は沢山ある。貴女を愛してくれる人は沢山いる。それだけは、忘れないで」
自信に満ちた満面の笑みを浮かべて、ひとつ返事が返ってきた。そしてそのまま踵を返し、夜の闇の中へ消えてしまう。やっぱりあの日の夜のように。
大丈夫だと言ったのに、あの子は笑って逝ってしまった。
大事なものを、全てを遺して旅立った。
どうか、どうかソフィアがシルフィと同じ道を辿りませぬよう。
この願い、満天の星に祈ります。
フグ食べたい。
最初の記憶は扇状に並べられたふぐのお刺身を父親が調子にのって箸で半分くらい掬い上げて全部食べたことですね。子供ながらに本気で殺意を覚えました。楽しみを奪われたのでしばらく拗ねてましたね。
大人になってもそうそう食べられませんが、たまたまふぐ料理店に足をむける機会に恵まれまして、そこでたらふくフグを食べました。
唐揚げが超美味かったです。鍋も刺身もいいんですが、やっぱり唐揚げですね。魚系のフライってアジやキスが美味しい部類ですがフグは別格に美味しいです。是非食べてみてください。




