異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 53
最近彼女を怒らせたことと言えば――――クラリスが片思いするハルアキくんに詭弁を弄してクラリスとデートさせたことかしら?
でもあれは私が仕組んだって気づかれてないはず。だからクラリスの敵意の原因はこれではない。
もしかして、ティータイムの時にクラリス以外の学生たちとお茶会をしたから?
でもあれは意見交換会という名目。嫉妬されるいわれはない。まぁ嫉妬してくれるなら、それはそれでかわいいけれど♪
あとはなにかしら。あるとすれば、洋服選びの時に勝負下着を無理やり買わせたことかしら?
でもあれはあれで本人もその気っぽかった。そもそもさっさと告白しちゃえばいいのに、クラリスが奥手なのがいけないのよ。早く私に貴方たちの子供を見せてほしいものだわ!
あぁ、思い当たる節がない。ひとまずスイーツをひと口食べよう。
ナッツをたっぷり使ったシュトーレンを噛みしめた瞬間、雷に撃たれたが如き衝撃を受けた。
もちろん味も素晴らしい。
でも今はそうじゃない。クラリスが不機嫌な理由が分かってしまった。そうだ。私はなんてことをしてきたのでしょう。義理とはいえ、これでは母親失格だわっ!
立ち上がり、クラリスに向き合って両手を取る。
しっかりと彼女の眼を見て謝ろう。
「ごめんなさい、クラリス。貴女の気持ちに気付いてあげられなくて」
「え、インヴィディアさん、もしかして気付いてくれたんですか?」
「えぇ、もちろんよ。だって貴女の義母なんですもの」
「インヴィディアさん……っ!」
うるんだ瞳がきらりと輝く。目に涙を浮かべた彼女は嬉しそうに、私の言葉を待ちわびる。
「これからはちゃんと――――手料理を作ってあげるからね♪」
「「「「「……………………」」」」」
瞬間、時間が止まったかのような錯覚に陥った。私以外が。
そうとも知らず、私は申し訳なく、と同時に見破ってやったぞと、自信たっぷりに語り出す。
「最近は忙しくてずっと作ってあげられてなかったわね。メドラウトに帰ったら、いいえ、明日は私の手料理を振舞ってあげるわ! 暁ちゃんも華恋ちゃんも、みんなも楽しみにしていてね♪」
「いえ、お気持ちは嬉しいのですが、インヴィディアさんは料理をしないほうが……」
「そう言えば! 晩御飯はいつも寮の料理長に作ってもらってばっかりだったわ。彼らだって家庭があるのに、夕飯くらいは家族と一緒にいたいわよね。私も忙しい身だけど、せめて月一くらいは学生たちに料理のひとつも振舞ってあげなくちゃ♪ そうすれば、学生たちの意見をもっと聞けるだろうし、私という存在を身近に感じてもらえるチャンスだわ!」
「暁さーんッ! メドラウトの危機なので助けて下さーいッ!」
「えっ!? メドラウトの危機!? どういうこと!?」




