表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
736/1080

異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 51

「みなさんには日ごろの感謝を。暁さんたちには、メリアローザを堪能させていただき、ありがとうの気持ちを込めてスイーツを作りました。よろしければご賞味ください♪」


 食堂に戻ったわたしとクラリスさん、ラムさんがみんなを前にして手を叩く。

 お辞儀をすると、喝采の拍手が贈られた。きっと喜んでもらえるだろう自信作を携えて、準備したスイーツをひとりひとりに配って回る。


 ひとつめは旬の果物を使ったグラデーションゼリーケーキ。多種多様な果物はもちろんのこと、下層と上層のゼリーで味を変えた味変スイーツ。

 ふたつめはナッツとドライフルーツを使ったシュトーレン。本来はクリスマスの定番保存食だけど、サマーバケーションでファイさんが作ってくれたオールシーズンシュトーレンを食べて、そんな常識は吹っ飛んだ。


 いつもなら、きらきらスイーツに瞳を輝かせるみなの笑顔が見れただけで満足。だけど今日は違います。インヴィディアさんにクラリスさんのハーブティーを飲んでもらう。彼女の気持ちを理解してもらう。それが今回の目的。

 舞台は整った。あとはクラリスさんが声をかけるだけ!


 わたしとラムさんはインヴィディアさん以外の人たちにハーブティーの注文をつけていく。

 彼女はもちろん、大好きなインヴィディアさんに真っ向勝負!


「インヴィディアさん、今日はどんなハーブティーにいたしましょうか? ゼリーケーキもシュトーレンも甘めなスイーツなので、ふんわりと心地よい酸味香るレモンバームなんていかがでしょう?」


 そう、今日の飲み物はハーブティー一択!

 これならクラリスさんの願いが叶う!

 インヴィディアさんはスイーツを眺めてクラリスさんに笑顔を向けた。


「ゼリーケーキもシュトーレンも本当に素敵っ! これ、クラリスも一緒に作ったの?」

「はいっ! 初めてだったので少し手間取ってしまいましたが、上手に作れたと思います!」

「まぁまぁ本当においしそうだわ。あ、飲み物を淹れてくれるのよね。そうねぇ、今日の気分は…………」

「今日の気分はっ!?」


 クラリスさんは期待に胸を膨らませる。この時のためにフラウウィードから、あるだけ全部のハーブを貰ってきたんだ。どんな注文だって応えられる!

 はずだった…………。


「ええ、それじゃあ、烙耀豆を使ったコーヒーを淹れてもらいましょうか。昨日買ったものがあるから、これを使ってちょうだい♪」


 そう言って、インヴィディアさんがライブラから取り出したコーヒー豆の袋をクラリスさんに手渡した。

 なんという悪魔の所業!


 クラリスさんは思惑が外れ、希望を打ち砕かれ、夢を破断されて固まった。右斜め上の出来事に、わたしもラムさんも愕然として開いた口が塞がらない。

 クラリスさんは小さな声でインヴィディアさんの言葉を受け入れ、弱々しい足取りで厨房に消えた。幽霊みたいに……。


 これはダメなやつですっ!

 このままコーヒーを淹れさせてはいけない!

 わたしの危機管理センサーが大音量で鳴り響くっ!


「待って下さい、クラリスさん! ここで諦めてはいけません!」


 肩をゆすって強引に振り向かせる。と、彼女は絶望の眼で声もなく号泣した。


「だって……インヴィディアさんが、コーヒーを飲みたいって…………」

「でもクラリスさんは真心込めたハーブティーを飲んでほしいんですよね!?」

「そう、だけど……でも、ハーブティーを飲んでほしいっていうのは、あくまでわたしのわがままで…………」

「わがままだっていいじゃないですかッ!」

「――――え?」


 そう、わがままだっていいんだ。もっとわがままになっていいんだ。本当の気持ちを押し殺して、嘘を吐いて生きるなんてしてはいけない。

 それはわたしがよく知ってる。外面を気にして生きてきた。流されるままに生きてきた。

 でもそれじゃダメなんだ。もっと自分に素直にならなきゃ、いつか絶対後悔する!


「クラリスさん、インヴィディアさんとわたしを――――信じてくださいッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ