異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 51
「みなさんには日ごろの感謝を。暁さんたちには、メリアローザを堪能させていただき、ありがとうの気持ちを込めてスイーツを作りました。よろしければご賞味ください♪」
食堂に戻ったわたしとクラリスさん、ラムさんがみんなを前にして手を叩く。
お辞儀をすると、喝采の拍手が贈られた。きっと喜んでもらえるだろう自信作を携えて、準備したスイーツをひとりひとりに配って回る。
ひとつめは旬の果物を使ったグラデーションゼリーケーキ。多種多様な果物はもちろんのこと、下層と上層のゼリーで味を変えた味変スイーツ。
ふたつめはナッツとドライフルーツを使ったシュトーレン。本来はクリスマスの定番保存食だけど、サマーバケーションでファイさんが作ってくれたオールシーズンシュトーレンを食べて、そんな常識は吹っ飛んだ。
いつもなら、きらきらスイーツに瞳を輝かせるみなの笑顔が見れただけで満足。だけど今日は違います。インヴィディアさんにクラリスさんのハーブティーを飲んでもらう。彼女の気持ちを理解してもらう。それが今回の目的。
舞台は整った。あとはクラリスさんが声をかけるだけ!
わたしとラムさんはインヴィディアさん以外の人たちにハーブティーの注文をつけていく。
彼女はもちろん、大好きなインヴィディアさんに真っ向勝負!
「インヴィディアさん、今日はどんなハーブティーにいたしましょうか? ゼリーケーキもシュトーレンも甘めなスイーツなので、ふんわりと心地よい酸味香るレモンバームなんていかがでしょう?」
そう、今日の飲み物はハーブティー一択!
これならクラリスさんの願いが叶う!
インヴィディアさんはスイーツを眺めてクラリスさんに笑顔を向けた。
「ゼリーケーキもシュトーレンも本当に素敵っ! これ、クラリスも一緒に作ったの?」
「はいっ! 初めてだったので少し手間取ってしまいましたが、上手に作れたと思います!」
「まぁまぁ本当においしそうだわ。あ、飲み物を淹れてくれるのよね。そうねぇ、今日の気分は…………」
「今日の気分はっ!?」
クラリスさんは期待に胸を膨らませる。この時のためにフラウウィードから、あるだけ全部のハーブを貰ってきたんだ。どんな注文だって応えられる!
はずだった…………。
「ええ、それじゃあ、烙耀豆を使ったコーヒーを淹れてもらいましょうか。昨日買ったものがあるから、これを使ってちょうだい♪」
そう言って、インヴィディアさんがライブラから取り出したコーヒー豆の袋をクラリスさんに手渡した。
なんという悪魔の所業!
クラリスさんは思惑が外れ、希望を打ち砕かれ、夢を破断されて固まった。右斜め上の出来事に、わたしもラムさんも愕然として開いた口が塞がらない。
クラリスさんは小さな声でインヴィディアさんの言葉を受け入れ、弱々しい足取りで厨房に消えた。幽霊みたいに……。
これはダメなやつですっ!
このままコーヒーを淹れさせてはいけない!
わたしの危機管理センサーが大音量で鳴り響くっ!
「待って下さい、クラリスさん! ここで諦めてはいけません!」
肩をゆすって強引に振り向かせる。と、彼女は絶望の眼で声もなく号泣した。
「だって……インヴィディアさんが、コーヒーを飲みたいって…………」
「でもクラリスさんは真心込めたハーブティーを飲んでほしいんですよね!?」
「そう、だけど……でも、ハーブティーを飲んでほしいっていうのは、あくまでわたしのわがままで…………」
「わがままだっていいじゃないですかッ!」
「――――え?」
そう、わがままだっていいんだ。もっとわがままになっていいんだ。本当の気持ちを押し殺して、嘘を吐いて生きるなんてしてはいけない。
それはわたしがよく知ってる。外面を気にして生きてきた。流されるままに生きてきた。
でもそれじゃダメなんだ。もっと自分に素直にならなきゃ、いつか絶対後悔する!
「クラリスさん、インヴィディアさんとわたしを――――信じてくださいッ!」




