異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 43
暁くんの言葉に続く者は誰もいなかった。
僕たちは知っている。こうまで言い切る彼を止めることはできない。
彼女は知っている。クロくんが人の話しを全く聞かないということを。
「はい。それでは、レオさんはクロのことをよく知るためにメリアローザにいる間、ずっと一緒にいてもらうことにしましょう。サンジェルマンさん、シェリーさん、クロはどこに行ってもやらかすので、ベルンに行った後のケアを考えておいてください」
「どこに行ってもやらかすの!?」
と、驚きの声を上げた瞬間、走馬灯のように昼間の出来事が脳裏に流れた。
嗚呼、そうだね。彼女はきっとやらかすだろう。シェリーくんは僕よりも心当たりがあるらしい。
「前回はライラさんに勝負を挑んで、上手いこと料理勝負に持ち込んで平和的に解決したからよかったものの、今回のように戦闘になったら大惨事なんて次元じゃ済みませんよ。魔剣を10種以上扱う戦闘狂なんて止めようがない。止められたとしても街が壊滅する。どうしたものか……」
本人がいる前でそれを言うのはマズいのでは?
と思ったが、本人の耳には右から左。まるで脳内に入ってない。興味のあること以外に関心がないと聞いた。侮辱や批難だったとしても、本当に興味のないこと以外には関心がないらしい。
シェリーくんが頭を悩ませる姿を見て、常識を持ち合わせるリリィくんが常識的な発想を披露する。
「メリアローザとベルンは勝手が違うのは当然なのですから、ベルンでのルールを守ってもらうようにすればよいのではないでしょうか?」
リリィくんの言葉に良識を持つ暁くんが、がっくりと肩を落としてため息をもらす。
「それが通れば苦労はないんだ。しかし、一縷だけ望みはあります」
「「「「「一縷だけ望み?」」」」」
一縷だけしか望みがない時点で不安しかないジレンマ。
疑問符しか言葉にできなかった我々の沈黙を暁くんが切り裂く。
「クロは一度負けた相手の言うことはそこそこ聞き入れます。そこそこ。なので、レオさんがクロをなにかしらで打ち負かすか、今日、彼女に武力で勝ったサンジェルマンさんが手綱を握るか、です」
「それは嫌だよ絶対にッ!」
立ち上がったのは未来の旦那であるレオ・ダンケッテ。己の惚れた相手に他人が物言いなど断固許せない。その気持ちは僕にも分かる。
が、どうやって彼がクロくんに勝つだろう。申し訳ないがレオくんよりクロくんのほうが実力は上。しかも一対一では分が悪すぎる。
レオくんは単独戦闘だと中距離戦闘スタイル。対してクロくんは超近距離から中距離までいけるバーサーカー。分が悪いなんて次元ではない。
彼もそれを理解している。僕が戦ったところを見た彼は嫁のほうが強いと分かった。戦闘では歯が立たない。他になにかないか。彼女を上回ることのできるなにか。
頭を捻って導き出した答えは彼の趣味のひとつ。
「料理勝負で勝てばいい!」
指パッチンをして、『これで解決☆』とどや顔をした彼の顔に暁くんが焼き鏝が如き言葉を押し付ける。
「前回、ライラさんと料理勝負をして引き分けて、それからめちゃくちゃ腕を上げてますので覚悟してください。鬼のように厳しい料理指導をするルクスや、蝶の食堂の料理人も認める腕前になりました。おそらくですが、ライラさんより料理の腕前は上ですよ」
「…………………」
ライラくんの料理上手は騎士団の中では結構有名。それを上回るということは、最低でもホームパーティーの料理指南ができるレベルということ。




