異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 40
しからばどうするか。明日の予定を確保しておきたいすみれくんは頭をフル回転させた。
「それでは明日はなにをしましょう。あ、そうだ! 明日はニャニャさんもリリィさんもお休みなんだよね。オータムフェスティバルで作る予定のタルト作りをしない?」
通路を挟んだ隣の机に座る2人に声をかける。一瞬考えて、ガッツのポーズで応えた。
「やるです! 3時にフェアリーとティーパーティーですっ!」
「やりましょうっ! 明日は薔薇園でティーパーティーですっ!」
心が重なった3人がサムズアップ。そうだった。今年のオータムフェスティバルで寄宿生2年生になるリリィくんたちのクラスは倭国カフェを出すんだった。そのためのスイーツをすみれくんに相談したと聞いた。
本来なら自分たちで試行錯誤するべきなのだが、すみれくんの料理がおいしすぎたこと、クラスのほとんどが壊滅的に料理ができないことを理由に外部協力者として参加してもらうことに。
彼女は喜んで協力してくれるという。本人がいいのならいいのだけど、ちょっと申し訳ない。
レーレィを通じて、彼女になにかお礼の品を用意しておこう。
暁くんが席を立ち、談笑に耽るところに配膳が始まった。
生魚を使った海鮮丼。松茸のお吸い物。サーモンの切り身が2皿。旬の野菜を使ったおばんざいが3皿。彩豊かな盆の上にはすみれくんが提案した料理があるという。
「なんとルイベを用意していたということで、前々からやってみたかった、【ルイベの米麹漬け】を作りました。そのまま食べてよし。少し炙って香ばしくするもよし、です!」
ルイベとは、ここよりずっと北にある雪国独特の食べ物。脂の乗ったサーモンを雪に埋めることで、水分と脂が適度に抜けてサーモンの旨さをより強く感じられる食材のこと。冷凍したままを食べるのだが、口の中に入れると口内の温度で身は溶け滑らかな食感を楽しむことができる。
すみれくんが作ったという米麹漬けのルイベは熟成発酵させることで、米とサーモンの旨味を限界まで引き出した極上の逸品に仕上がった。
僕の食文化的には野菜からスタートする。でも今回は凍った状態のルイベを楽しむため、まず最初にルイベをいただくことにした。
「ほほうっ! 口に入れた瞬間から溶けて、サーモンの風味が口いっぱいに広がっていく。これはなかなか旨い。ラムくんはどうだい?」
「うちでもサーモンは人気商品なんでよく使うんですけど、凍らせた状態をそのまま口に入れるって発想は奇想天外ですね。通常は生か、燻製にするか炙るかです。サーモンと言えばおいしい脂を楽しむって側面が強いですから。でもこれは余分な水分と脂分を削いでサーモンの旨味の限界に挑戦した印象です。凍ってカチカチのはずなのに、口に入れると溶けて柔らかくなる食感の変化が楽しい。これは新発見ですね」
ラムくんの驚きに被せて、すみれくんから面白情報が提供される。
「ちなみに、サーモンは半身ごと冷凍されるので、食べる際には凍ったまま小刀で身を削ぎ落します。さながら魚版のドネルケバブです」
「魚版のドネルケバブ! 客の目の前で披露したら絶対受けるやつ!」
魚版のドネルケバブ。表現が面白い。魚を凍らせて保存する方法は、魚が採れる北国ではしばしば用いられる料理だ。以前、ボルティーニ国の北海地域に出向いたおり、似たような料理を食べたことがある。あの時は香草とともに炙って食べたんだったはず。
これは生でもいける。ということは、炙ってもおいしいはず。半分残しておいて、あとで炙って食べよう。




