異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 38
ひとまず話しはギルドの食堂に戻ってからということで、足早にダンジョンをあとにした。それにしても、僕だってくたくたなのにクロくんは自分で歩けるという。おかしいな。しばらくは起き上がれないくらいの攻撃を叩き込んだはずなんだが。
体力がお化けすぎる。回復力もすごい。外傷も打撲も完治済み。アルマくんの言葉通り、とても人間とは思えない。
夕食時のギルドの食堂【フレナグラン】は大盛況。というのも、今回は外国へ遠征へ出ていた人たちを労うための慰労会が開催されるということだ。なので、僕たちは部屋の端の目立たないところで事情聴取を受ける。
簡潔にことの顛末を説明すると、暁くんは呆れた顔をして、可哀そうなものを見る目でクロくんを睨んだ。彼女の性格からして叱責するだろうと思いきや、諦めの表情を見せて僕たちに謝罪だけをした。
暁くんが会話を諦めるほどの相手か。アンチクロス・ギルティブラッド。彼女も彼女でまったく悪びれた様子がない。
昨日、エルドラドへ向かう前に全員が占いを受けた。レオくんの占いの結果は、『惚れた相手に大火傷』だったか。大火傷では済まなさそうだ。
「誠に申し訳ございません。ギルドのメンバーが多大なご迷惑をおかけしました」
「いやいや、今回のは事故みたいなものだから。全然気にしなくていいよ。それより今日は賑やかだね。珍しい料理でも出るのかな?」
申し訳なさそうにしながら、しかし話しが進展しないことを理解した彼女は僕の笑顔に答えてくれる。
「え、えぇ、龍のギルドマスターが国外遠征から戻ってきましたので、その慰労会と感謝を伝える場を設けました。くわえて、ギルドのまとめ役であるエクシアさんもいらっしゃるので、異世界間交流にあたって言葉を交わしていただければと思います。龍のギルド、【ドラゴンテイル】は主に外国へ遠征を行い、国家間の友好関係を築くことを仕事にしています」
「なるほど。それは実に興味深い。ぜひとも話しをしたいところだ」
「ぜひに。場はこちらから用意いたしますので、それまで晩御飯を食べていてください」
暁くんはひとつ頭を下げたのち、龍のギルドマスターと言った男性の元へ挨拶に向かった。
30代後半といったところか。ここからでも分かる。相当な実力者だ。ギルドマスターだけではない。遠征に出向いたという仲間も食堂にいる。彼らも超一流の冒険者。もしかすると戦闘力だけなら全員、騎士団長クラスかもしれない。
戦闘力や各々の戦闘スタイルが気になるところ。でも今は食事時。愛する妻の隣で楽しい夕食といこう。
妻の隣に座ると、対面にアーディくん、ベレッタくん、すみれくんが並ぶ。妻の横にはバル経営者のラムくん。
エルドラドの水晶鉱床視察ののち、彼女たちはエルドラドに残って山菜採りに出かけた。表情を見るに随分と楽しい時間を過ごしたようだ。
「エルドラドの自然は豊かなようだったが、山菜採りはどうだったかな? みんな、楽しめたかい?」
空に言葉を置いて、最初に拾ったのは小鳥遊すみれくん。瞳を輝かせて楽しい思い出を語る。
「それはもう大豊作の大収穫でした! 大葉、クルミ、ノビル、山栗、自然薯からは零余子も一緒に採れました。キノコも果実も豊富で、気づいたら陽が暮れ始めてました」
「それはすごいな。今日はそれらの食材も夕飯に出るのかい?」
「はいっ! 本来であればエルドラドで全て使われるのですが、たくさん採れたし、まだまだ山に生っているのでフレナグランに持って帰らせていただきました」
「それは素晴らしい。晩御飯が楽しみだなぁ~♪」
「今日の晩御飯はドラゴンテイルのギルドマスターの好物の海鮮丼です。遠征先の外国で気に入ったという料理も出ます。私たちからはバドゥルジャン・イマム・バユルドゥを作りました。ついに白ニンニクが手に入ったそうです。トマトもタマネギもナスも秋が旬なので、今が一番おいしい季節です」
「君たちも料理を作ってくれたのかい? それは本当に楽しみだなぁ。そうそう、サマーバケーションで作ってもらった料理はどれも好評だったよ。できれば来年も頼みたい」
「本当ですか!? 喜んでくださったみたいで嬉しいです♪ もしよろしければ、来年もよろしくお願いします」
「いやいや、こちらこそ」
倭国人特有の謙虚さを持つすみれくんは深々とお辞儀をして謝意を表した。感謝するのはこちらのほうだ。おかげで合宿中の寄宿生の士気は例年に比べて遥かに高かった。
食べることは生きること。
食べることは楽しむこと。
食べることは世界を広げること。
食事はとても大切なのだ。




