異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 36
僕は脊髄反射的に大剣の面を拳で突き上げた。大剣の遠心力のまま吹き飛ぶかと思ったが、軌道が逸れて僕の頭上に刃が来たと同時にピタリと止め、柄を回転させて振り下ろす。白羽取りの構えをするも、クロくんに振り返ったアルマくんが容赦なく彼女の鳩尾に魔法をぶっ放した。
天崩。
魔導防殻をたやすく破壊した最強の攻撃力のひとつ。それを人間に直撃させた。
さすがにやりすぎでは……?
アルマくんはため息をつき、事情を説明してくれる。
「過去になにがあったかは知りませんが、クロさんとハティさんは超犬猿の仲です。名前を聞いただけでこの通り、怒髪天になります。すみません。説明するのを忘れてました。それと、アンチクロス・ギルティブラッドを――――人間と思ってはいけません」
両袖を大きく広げた金髪ツインテふりふりフリルの少女にあどけなさが消えた。死地にて生を拾わんとする戦士の顔。これが冒険者としての彼女の側面。魔法に饒舌になる天真爛漫な姿はどこにもない。
眼前には超長距離殲滅魔法で抉れた大地が広がる。深さ1メートルの楕円形の大地がまっすぐに伸び、ある一点を境に二又に分かれている。
分岐点には黒塗りの盾を構え、冷静に獲物を観察する猟犬のような眼差しをした女性がいた。
アレを防ぎ切ったのか。盾の魔剣を構えた狂戦士が平らな大地へ移動して突っ込んでくる。盾をライブラに仕舞い、次に取り出したのはチェーンスター。鎖の先に棘のついた球状の武器。
殺意を向けて突進してくる。
彼女に攻撃したアルマくんも敵判定か?
いや、それなら小回りの利く双剣のはずだ。近接戦闘職の僕と遠距離魔法職を同時に相手するなら、素早く移動できる武器を選ぶはず。
つまり彼女の狙いは僕一人。ならばどうにでもなる。
「アルマくんは姫様を守ってほしい。ちなみに、彼女はどうやったら止まる?」
「完膚なきまでに叩きのめしてください! あと、姫様とシェリーさん、レオさん、ニャニャ、リリィはメリアローザに戻って暁さんにこのことを報せてください。アルマと陽介さんで援護します!」
アルマくんの指示ののち、退避組は迅速に離脱。
僕は剣で応戦しながらチェーンフレイルの猛攻をかいくぐる。
クロくんは鎖で斬撃を殺し防ぎ、チェーンを魔力で操って攻撃してくる。
僕は体術で躱し、剣を傾けて防ぎ、距離をとって体勢を立て直す。
しのぎきれないことはない。知らなかったとはいえ、彼女の琴線に触れてしまったことは謝りたい。今は話しが通じないようだけど。
しかし、なんてことだ。僕は女性の笑顔が見たいだけなんだ。そういう意味ではクロくんの笑顔が見られたことは僥倖かもしれない。
最初は本当に怒ったのだろう。名前を聞くのも嫌いな相手を思い出されて、怒髪天になった。だけど今はどうだろう。
なんて、なんて楽しそうに武器を振うんだ。最高に楽しくて、最高に気持ちいいっていう笑顔をする。
彼女は本物の――――――戦闘狂なんだ。




