異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 34
濃い味も高威力の魔法も大好きなアルマくんはテンションアゲアゲでくるくる回って踊り狂う。高威力の魔法が好きなのはともかく、そんなものをほいほいぶっ放さないようにしていただきたい。
魔導防殻を3度も壊してしまってからでは遅いかもしれないが。
ひとまず、アルマくんの魔法大好きトークの内容については手の空いている姫様に記録してもらうとしよう。彼女は異世界間交流の外交員という役割で来訪した。彼女が父のため、国のために働きたいというのだ。絶好の機会を逃す手はない。
同時に、我々はマジックアイテムの視察に集中しよう。
インスタントマジックの数と組み合わせについてはキリのいいところで手じまい。組み合わせ表を譲っていただけるということなので、実物を持ち帰って検証しよう。
陽介さんが次に取り出したのはミノタウロスの頭蓋骨を加工した【魔力視の仮面】。
モンスターの頭蓋骨を加工した仮面の内側には魔法陣がびっしりと刻まれ、仮面を介して覗いた相手の魔力量や魔力の色を感知するというもの。
便利ではあるが、難点がひとつ。超デカい。
「試作で作ってはみたんですが、やはり大きすぎて実用的ではありませんねえ。入国時の検問の際に使うくらいですかねえ」
「暗殺者やテロリストの判断に使う分には非常に有用です。有益なマジックアイテムだと思うので、我々でも研究がしたい。こちらの世界で小型化できないか研究します。ところで、こちらのアイテムはどういった判断基準で魔力量を測定するんですか?」
「残存魔力量は明度。明るいほど多いです。練度は色がはっきり見えているかぼやけているか。はっきり見えるほど練度が高い。色は術者が最もよく仕様する属性魔法が面積比として表れます」
「なるほど。わかりやすくていいですね。それじゃ、レオくん。ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「もちろんっす!」
仮面、というよりは盾のそれを構えて覗く。
するとどうだろう。赤色で塗りつぶされたレオくんの形をしたシルエットが見えた。丹田の近くに緑、茶色、青色の点が3つある。ぼやけは全くなく、素晴らしい魔力の練度の高さを示した。明度も申し分ない。明るいからか、赤というより朱色に見える彼の体は潤沢な魔力で満たされている。
これを陽介さんにも見てもらおう。
「なるほどなるほど。炎属性優位の魔力持ちですが、他3属性の魔力の練度も実に素晴らしい。ほとんどの人は得意な魔法を使い、優位な属性の魔力を鍛えるので他の魔力の色は小さくぼやけるものです。しかし彼は4属性全てを鍛えてらっしゃる。魔術師として尊敬しますねえ!」
「そ、そんなことまで分かるんですか? 秘密にしてたわけじゃないんすけど、副属性は絡め手や虚を突くために訓練してるんですよ。適正が低いからできることは限られるけど」
「いえいえ、素晴らしい心がけだと感心します。できることが多いに越したことはありませんからねえ」
さすが若くして副騎士団長の座を預かるもの。同僚として、先達として鼻が高い。
反面、そこまで分かってしまうとプライバシーの侵害を訴えられかねない。
「優秀なマジックアイテムですが、こちらの世界では魔力もプライバシーのひとつなんです。使用する時と場所と、法律とのすり合わせが先になりますね。法務局に問い合わせねば……」
「では設計図をお渡ししますので、不要な魔法陣は取り払ったり改修したりしてみてください」
「え、いいんですか? そんなにほいほい手渡してしまって。インスタントマジックもそうですが」
「問題ありません。更なる魔導の成長に繋がるなら。そしてそれが人々の幸福に繋がるなら。そちらの世界では魔獣という、人里に現れて暴れるモンスターがいるのでしょう? 貴方がたはそれらを討伐するための手段を必要としている。協力しない理由がありませんねえ」
「そうおっしゃっていただけると心強いです」
なんてありがたいお言葉なんだ。ありがたく頂戴しよう。




