異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 27
初対面の人の両手を取ることがマナー違反かどうかは微妙なところ。だが、どうやら彼女にとっては敵対行動だったようだ。
突然の出来事に周囲が硬直する。
歩く地雷原に突っ込んだ男の末路を見て真っ青になる者。
いきなりボディータッチをしたからって、組み伏せて地に倒す美女を見て真っ青になる者。
暴力沙汰が起こってカウンターから現場を覗き込む受付嬢のお尻を眺める者。
十人十色の顔が一同に会し、しかし言葉が出ず沈黙を貫く。これ、ここからどう処理するんだ?
獲物を狩る猛獣のような、それでいて冷静で冷たいナイフのような眼差しを受けたレオくんは、必至に首を回して彼女の双眸を覗き込み、絞り出すような声で嘘偽りない本心を伝えた。
「俺と、結婚してください」
時間が、凍った。
美女は一瞬考えて、彼の言葉を反芻する。
「結婚。結婚…………」
組み伏せた腕を解き、ブロッキングポーズの構えを取ってレオくんを見下ろす。
彼は解放されるやいなや、改めて求婚相手に跪き言霊を鳴らす。
「俺と、結婚してください」
その場を見た全員の気持ちが、音に出さずとも心をひとつにしたことを理解した。
「「「「「(こいつ、マジか……ッ!)」」」」」
1秒の沈黙がとてつもなく長く感じる。
風も、光も、音も途絶えたような、死よりも静かな静寂が横たわる。
眠りについた時間を揺り起こしたのは美女の質問だった。
「アルマ、たしかライラは結婚してたよな。暁も既婚者だったか?」
問われ、アルマくんは体をビクッと震わせて質問に的確に答える。
「えっ! あ、はい。そうです。暁さんは既婚者です」
「蝶にいる剣術道場のおっさんも既婚者だったよな」
「はい。お子さんもいらっしゃいますね」
「虎丞にも嫁がいたな」
「ですね。ラブラブですね」
「そうか。よし。結婚しよう」
「「「「「はぁッ!?」」」」」
どういう理屈なの!?
神通力か、神の悪戯か、悪魔の陰謀か、レオくんの想いが成就した。
認めん。
こんな展開は認めんぞ!
「僕だって女性に告白して結婚を承諾されたことないのにッ!」
「ちょっとサンジェルマンさんなに言ってるんですかッ!?」
シェリーくんのつっこみも聞こえなくなるほど悔し泣きをしてしまった。
ちくしょう。
羨ましい。
ちくしょう……っ!




