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故郷を偲ぶ 1

誰にでも故郷という場所はあると思います。

ふと心が寂しくなったりすると思い出の場所に帰りたくなることもあるでしょう。

今回、主観で進むハイジの故郷は周りを海に囲まれ、小さな島々の群からなるバティックと呼ばれる国の出身です。モデルはインドネシアです。




以下、主観【ワンハイジー】

 ちょっと見ないうちに大変なことになっていた。

 料理がいっぱい人がいっぱいの大所帯。牛を引っ張って来たまでは記憶がある。

 まさか心臓バクバクぱっくんショーが計画されていたとはね。おかげ様で、あたしの一生に於いて食べ物を粗末にすることはなくなるだろう。


 意識し始めるとお皿に残ったわずかな食べ残しも気になって、フォークとスプーンでつまんで口へと運んでいた。

 本来ならこうあるべきだと分かってるからこそ、今までもったいないことをしてきたなぁと反省する自分は敬虔だろうか。

 なんにしても、どれもこれもおいしくて残すところがない。今日のところは問題ないかな。


 それより問題なのは見知らぬ人が沢山いること。

 グレンツェン屈指の工房長の2人とその門弟さんたちはいいとして、ユノさんの周りの女性3人。ペーシェの弟と名乗る男子とハーレム美女たち。空中散歩チームの子供たちも初顔合わせ。


 話題になってた空中散歩のメンバーにこんなに早く出会えるとは思ってもみなかった。思ってもなかったし、お祭り当日に先んじてしゃぼん玉で空を飛べたのは実に僥倖。

 ハンヤさんのSNSに上がった動画を見て、キッチンの休憩時間に必ず遊びに行こうと考えていたからだ。


 あれはいいものだ。想像以上にメルヘンな世界。

 この歳になって子供っぽいメルヘンに興じるのもちょっと恥ずかしかったから、ここでみんなに便乗してふわふわできたのはとても助かる。

 しかも空中散歩のリーダーは、ハティさんやすみれと同じ家でシェアハウスをしてるというではないか。

 シェアハウスには屋上庭園もあって、今度パーティーをしたいと言ってるから、その時に遊びに行こう。

 野外での空中散歩。想像しただけで心が楽しくなってしまう。むふふっ。


「どったの、ハイジ。幸せそうな顔しちゃって。そんなにかき氷がおいしかった? たしかにめちゃくちゃおいしいけど」


 ペーシェもすごく楽しそう。楽しくない理由なんてここにはないけど。


「うぅん? このかき氷、ふわじゅわでめっちゃおいしいよね。お祭りだけじゃなくて委託販売で夏にも出せるようにして欲しいよね~。ちなみに、にやけてた理由の方は、晴天の元で空中散歩できたら最高にメルヘンだなぁ~って妄想してた」

「それどっちもちょーわかる。でもヘラさんから無茶振りが来たから、休憩時間をまともに取れるか分からなくなっちゃったよ。間違いなくアルマちゃんの企画は行列するだろうし。お祭り当日は遊べないだろうね」

「だよねぇ。でも今度、すみれの住んでる家の屋上でティーパーティーをしたいって言ってたから、その時に遊ばしてくれるかも」

「それなんだけど、グレンツェンは制空権が厳しいから高くまでは無理かもね。でもできたらいいね」


 顔を見合わせると笑顔がこぼれる。友人と語らって、同じ気持ちを共有できるのは楽しいものだ。

 もっと楽しくなるために、なんとしても我が願望を叶えていただきたい。


「ヘラさんの無茶振りを聞いてるんだから、こっちの無茶振りも聞いてもらおう!」


 指をぱちんと鳴らしてペーシェが頷く。


「そうしよう! あ、そうだ。刺繍の方はどうなったの? 結局、色々と相談した結果、布看板にしようってなったはずだけど」


 そうなのです。最初はテーブルクロスにしようと思ったのだけれど、白鯨のテーブルがあまりに美しく、料理が机に零れた時に綺麗に掃除がしやすいように、布の敷物は無しになっちゃった。

 でも看板がまだ製作途中で作ってないということだったので、キッチンの雰囲気ともマッチしてるから、是非ともとお願いされた次第なのであります。

 蜘蛛の糸の布地に刺繍で作る布看板だなんて超贅沢。


 さっそくお披露目タイムと意気込んで、ペーシェに片端を持ってもらって御開帳。

 緩やかな朱色と黄色のグラデーションがついた夕焼け色の生地。絹糸と金糸でシンプルにあしらった刺繍。数々の動物たちが歩き回り、真ん中には大きくキッチン・グレンツェッタの文字。

 絹糸の間から時折覗く金糸の輝きが目に留まる自信作。


 みんなが感嘆のため息を漏らして称賛を送ってくれる。

 正直言って自信はあった。だけど自己満足はいくらでも出来る。

 他人が見たらどうなのかなぁ、と心配はした。どうやら杞憂だったようだ。

 あとは両端に刺す棒をみつくろって、張り出してる屋根に設置できるようにするだけ。


 布看板の話しをさっくりとまとめ、本題に入るとしよう。


「これさ、まだ布地が沢山余ってるんだよね。さすがにお祭り当日までに何かを作る時間はもうないんだけど、よかったら記念に何か作らない? テナントとかハンカチとか」

「いいねそれ。みんなとお揃いのやつにしてさ、思い出に何か作るんだな」


 なにかいいかな。ルーィヒもあれやこれやと妄想にふける。


「とてもいいアイデアだね。デザインもみんなで考えて同じものにしよう」


 アポロンさんもみんなも同意。さぁさぁなにを作ろうか。


 こんなに素敵な生地なんだもの。

 布看板だけだなんてもったいない。


 やいのやいのとしながら、とりあえず広げた看板を丸めてたたんでいると、布の間から妙な感触を感じた。

 何かを巻き込んでしまったのだろうか。妙にもにょもにょするものが挟まってる。

 朱色の海から顔を出したのは白い雪うさぎ。

 あったかそうに丸まって動こうとしない。引きはがそうにもがっしり掴んで離さない。

 夢心地になる気持ちはわかるけど、あんまり爪を立てられると破けちゃう。無理やり引き離そうとすると余計にムキになっちゃうやつだこれ。あぁ~もぅ、かわいいなぁ。


「無理にしたらせっかくの布が痛んじゃうよ。ハティさんにお願いして離れてもらうように言ってもらおう」


 ペーシェが指差した先に食事中のハティさん。途端、脳内にフラッシュバックが起きる。


「そのハティさんは今、お食事中だから話しかけないほうがいいのでは?」


 蘇るアイザンロックでの記憶。スパルタコがハティさんの食事を邪魔しようとして、指をフォークでぐっさり刺されそうになった景色が脳裏をよぎる。

 食べ物を横取りしようとしたら殺されると忠告された。横から話しかけるのはアリなのだろうか。

 多分大丈夫だろうけど、ちょっと怖い。

 もくもくと食べ続けるハティさん。こっちの言葉など耳にも入っていない様子。食欲のままに手を動かす。梃子でも動かないとはこのことか。

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