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異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 14

 熱弁ののち、少し喉を潤したくなった。

 タイミングばっちりなことに、セチアがアイスハーブティーの差し入れをしてくれる。


「アイスでローズティーを淹れました。はちみつをひと匙入れたので、リラックスできると思いますよ」

「ローズティー! 飲みたい飲みたい!」


 歳甲斐もなく大手を振ってしまうほど、この場はあたしの心を童心に還してくれる。

 涼やかなガラスコップにローズティーが注がれる。華やかなピンク色のハーブティー。カップに鼻を近づけると、瞼の裏には一面の薔薇園が広がった。

 軽やかなリズムを刻むミツバチの羽音が聞こえてくるようだ。

 ひと含みして舌の上に転がして味と香りを楽しむ。柔らかな軟水のローズティーを飲み下せば、幸せのため息がこぼれてしまう。


「おいしい……。すごく優しい味がするね。ローズティーの花びらはセチアたちが育てたものなの?」

「ええ、私とフェアリーたちと、花の手入れが好きな人たちみんなで育てたものです。毎日のように愛を込めて、一瞬だとしても、誰かの幸せの一助になりますように、と」

「だからこんなにもおいしいんだね。セチアたちの気持ち、受け取ったよ。本当にありがとう」

「いえ、こちらこそ。それと、もしよろしければ、彼女たちと遊んでいただいてもよろしいでしょうか。華恋と話してる時計に興味があるみたいなんです」


 見ると、5人のフェアリーはあたしが持参した見本の腕時計に集まって真剣な面持ちでいる。


「細くて長い針がぐるーって一周すると、次に長い針がカタッ、って、一個だけ動くみたい」

「針も歯車も、みんなぴかぴか光ってます。とっても綺麗です!」

「それにしても、どの歯車もずっと回りっぱなしですね。疲れないのでしょうか?」

「それに比べて、短い針はのんびりやさんですね。さっきから全然動きません」

「ぐるぐるを追いかけたら目が回ってきちゃった……ミレナ、ハーブティーを少しちょうだい」

「もちろん! 好きなだけ飲んでいいからね♪」


 言うと、私も私もとぴょんぴょん飛び跳ねておねだりタイム。

 作ってくれたのはセチアなのに、おねだりされるのがあたしなのが少し心苦しい。

 だけどフェアリーとの触れあいはここだけなので、細かいことは無視させていただきます。


 ガラスコップからビー玉サイズの水滴を魔力で掴み取る。宇宙空間で水は球体になるのと同じように、彼女たちがすくい出したローズティーはピンク色の水球となってフェアリーたちの喉を潤す。

 飲むたびに水玉は小さくなって、最後には消えてなくなった。


「ぷはーっ! 冷たくっておいしい! ミレナ、セチア、ありがとう!」

「どういたしまして。おかわりが欲しくなったら遠慮なくお申し出ください」

「本当にありがとう。おかげで素敵な時間を過ごしてるよ。フェアリーたちも時計のことで気になることがあったらなんでも聞いてね」

「わかった。えっとね、なんで時計って右回りなの?」

「いいーーーーーーーー質問だねっ!」


 びっっっくりした。

 まさかフェアリーから、こんなナイスクエスチョンが飛び出してくるとは思わなかった。

 純粋ゆえの疑問か。セチアの芸術的感性を受けての素朴な気づきか。

 どうやらあたしは、フェアリーがかわいくて素敵な存在なだけという偏見を捨てなくてはならないようだ。


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