異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 5
そんなことなどお構いなしのラクシュは注がれるはちみつの滝に感動を覚えた。
シェリーは遠くで流れるはちみつの滝に心打ち震え、魂のままに暁を見た。
太陽の少女は思惑通りの展開が見れて満面の笑みである。
「昨日も申し上げた通り、シェリーさんを幻想神殿に入れることはできません。でも、まぁ、このくらいのサービスはしますよ。お礼と思って受け取っていただけると嬉しいです」
「暁っ! ありがとうっ!」
シェリーは暁に感謝の言葉とともに固い握手を交わした。絶望からの復活は誰しもが喜ぶところ。大好物が用意されたとなればなおのこと。
アルマや華恋、エルドラドの住人が尊敬し、ギルドという組織の頂点に立つ人間の器量は本物のようだ。
さて、気を取り直してラクシュの表情を見てみよう。
なんて楽しそうにコンポートを食べるんだ。果物が大好きで、きらきらな物が好きなラクシュはホットケーキそっちのけでコンポートにくらいつく。
はちみつがけのコンポート。甘いに甘いを足してもっと甘くなったコンポートをフォークに刺し、太陽にかざして楽しみ、お口に運んで愉しむ。
全身全霊で今この時を楽しむ姿に癒される。他の子も同様、見たこともない素敵スイーツに舌鼓。
バーニアもこれを見てよだれがたらり。
それを見たクラリスはバーニアを呼ぶ。無論、一緒にスイーツを楽しむためだ。
「バーニア、よかったら私のコンポートを食べませんか? あまあまできらきらですよ♪」
「いいのっ!? やったー♪」
超音速でクラリスの前に飛ぶ。差し出されたみかんのコンポートをぱくり。咀嚼して、とびきりの笑顔を見せてくれた。
あたしは彼女の喜ぶ表情が見たくて、背をのけ反らせてみるも横顔しか見えない。ちくしょう。こうなったら、あたしの皿が来たらバーニアを呼び寄せるしかあるまい。彼女のお腹がいっぱいになる前に、早く、早くホットケーキを焼いてちょうだいなっ!
「お待たせいたしました。ホットケーキとコンポート、はちみつがけ。追加のアップルミントティーです」
「待ってましたっ! バーニア! あたしのとこにもホットケーキが来たから一緒に食べよう!」
「いいのっ!? わかった!」
「よぉ~し、バーニアはどれが食べたい?」
「う~んとね、マスカットが食べたいな。緑色の半円球のやつ」
「よし、それじゃあどうぞ♪」
あーんして、かぶりつこうとするバーニアの横でラクシュが2人のやり取りを凝視した。
どうやら緑色の果物に反応したようだ。
バーニアがぱくりと食べ、もぐもぐすると、ラクシュは羨ましそうに眺め、あたしの皿の上を見てぽつりとつぶやく。
「みれなおねえちゃんのこんぽーと、みどりいろがいっぱいあるっ! いいな……」
なるほど。どうやらラクシュは緑色が好きなようだ。メモしておこう。
よし、ともすればお姉さん風を吹かすために緑色のコンポートを差し出してあげようじゃないか。
「ラクシュは緑色が好きなの?」
「だいすきっ!」
なんていい笑顔なんだ。不覚にもシャッターチャンスを逃してしまった。
不意にラクシュの皿を見る。ホットケーキはほとんど残ってる。反対に果物は全部食べ切ったようだ。
「もうすっかりコンポートを食べきっちゃったんだね。よかったらあたしのコンポート、どれか食べる?」
「いいのっ!? たべるっ!」
素直に自分の欲望を全面に押し出してくれる子供は大好きです!
というわけで、バーニアに続いてラクシュにあーんしてあげましょう。
マスカット。キウイフルーツ。梨。メロン。よし、全部あげよう!
「それじゃあひとつずつ、マスカットからどうぞ。あーん♪」
「あーん。もぐもぐ。んん~~~~っ! おいちいっ!」
「それはよかった。よーし、次はどれがいいかな~♪」
とかやってると、心の妹を奪われたラムが凄い形相で睨んできた。
が、無視!
今はあたしのターンだからっ!




