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Let’s eat the KANI.

カニ食べたい。

ひと昔は殻付きばっかりが売られていましたが、最近はわざわざ割らなくてもしゃぶしゃぶしてすぐに食べられるタイプが出てきて実に素晴らしいですね。高くて手が出ませんけどね。


今回はカニを食べる回です。

この作者、いつまで伏線を張り続けるの?

と、思っている読者の方がいらっしゃったりそもそも読者いるのかって感じですが、そろそろ終わる予定です。マジに際限ないんで。




以下、主観【エディネイ・ガーヴァリオウ】

 激辛料理がない。

 激辛料理はないのにおいしい料理が沢山並んでる。

 マルコが帰省すると聞いて便乗し、お姉さんと会うというからポイント稼ぎをしようと企んでいたら、流れ流れておいしいご飯に舌鼓。嬉しいことに肉料理が多い。

 鯨のロースト肉も内臓を使った煮込み料理も絶品。特に鳥軟骨の唐揚げがうますぎる。

 塩唐揚げはシンプルでいい。甘辛唐揚げはコクの強い甘さとピリ辛の味付け。ジューシーな肉汁と相まって最高のハーモニーを奏でた。

 こんなものは生まれて初めて食べる。あとでレシピを教えてもらおう。


 ひたすらがっついて食べてると、厨房から濃厚なガーリックの香りが漂ってきた。

 グラタンとラザニア。辛い料理ではないが、どっちも食欲をそそる匂いを放ってる。

 鯨肉のベーコンがカリカリジューシーな音を立て、黄色いチーズはふつふつと魅惑のダンスを踊った。

 ラザニアに挟まってるオムレツはチーズとほうれん草を混ぜたもの。そのまま食べてもおいしいのに、ソースにパスタ、チーズに挟まれてるとなれば何段階もおいしくなるに違いない。


 食欲のままに皿に分けてもらったはいいものの、少し取りすぎたかも。

 ちょうどあそこにアナスタシアがいるから一緒に食べようかな。

 彼女は俺の2つ歳上。寄宿生の2年生。先輩と後輩の間柄。学年を飛び越えて、演習でチームを組むこともあるシェアハウスの同居人。さらに同じ激辛料理好きということもあって仲良しなのだ。


「おいーっす。おいしそうなグラタンとラザニアを貰ったから一緒に食べようぅお!?」

「ありが…………なにこれ!?」

「やぁーん。リィリィのカニさん、待ってー!」


 何かが足元にぶつかったと思って振り返ってみると、そこに真っ赤なカニ。しかもデカい。

 カニってこんなにデカかったっけ。体長60cmくらいあるんですけど。足も爪も俺が知ってるカニよりはるかに大きい。

 どうすればいいんだこれどうすればいいんだ。

 反射的に頭にチョップを入れてしまった。気絶したのかクリーンヒットしたのか、地にひれ伏して微動だにしなくなる。

 死んだのか。というかこれでいいのか。殺さずに捕まえたほうがよかったのか。


「あっ、ようやく止まった。ありがとうお姉ちゃん。お礼に一緒にカニさん食べよ! お姉さん、お名前なんて言うの?」


 超絶かわいい美少女登場。

 デカいカニを抱えて上目遣い。なんだ、この状況。シュールすぎて吹き出しそう。


「俺はエディネイ・ガーヴァリオウって言うんだ。こっちはアナスタシア・スレスキナ。よろしくな」

「アナスタシアお姉ちゃんとエデ…………エデ、エデネイお姉ちゃん。カニさんを食べるの手伝って欲しいんだけど、いい? あ、リィリィはねリィリィって言うんだよ」


 小さい『ィ』が発音できないのかな。あれ、でも自分の『ィ』は言えてるよな。いやリィリィの『ィ』は伸ばす棒の方だから、実際に『ィ』とは発音してないか。

 かわいらしい笑顔の少女はリィリィ・フォン・エルクークゥ。黒のワンピースに金髪ストレートは大人の女性を思わせる。

 年相応の屈託のない笑みは見ていて癒される幼さがあった。


 吸血姫(ヴァンパイア)と紹介された少女のお願いを断る理由もなく、さっそく寸胴鍋にたっぷりの水を入れて沸騰させる。

 塩ゆでの準備が完了する頃にはカニは四肢をもがれ、あられもない姿になっていた。

 カニの準備はリィリィの担当。虫も殺せなさそうな顔をしてるというのに容赦なく、ばっかんばっかんと足をもぐ。

 子供っていうのは残酷な面を覗かせる時があるという。これはまさにそれなのかもしれない。


 その後も足の付け根を持って、『ぱっかーん』と言葉を放ちながら殻を両断していく。

 彼女曰く、カニを調理するためだけに編み出した【ぱっかん魔法】なのだそうだ。

 どんだけカニが好きなんだ。そんなにおいしいものなのだろうか。

 見ると蟹の外殻は1ミリもある。外骨格にしてはめちゃくちゃ厚い。指で軽く押しても曲がりもしない。

 重ねたら盾に使えそう。そのくらい頑強。


 ベルンでも高級食品の1つとして数えられ、一般市民ではなかなかお目にかかれない。時折スーパーで見かけるけど、お高くて手が出ない。そもそもどう食べるのかも知らない。

 知らないので直球で聞いてみよう。彼女とはぜひとも仲良くなりたい。


「お姉さんさ、カニってどう食べるのか知らないんだ。そのまま茹でるだけでいいの?」

「エデネイお姉ちゃんはカニさんを食べたことないの!? 人生の全部、損してるよ!」


 目を見開いて後ずさり。大きな口が開いて閉じない。

 驚愕。心の底から驚いて愕然とした表情を見せた。

 反射的に口走る言葉はこうだ。


「人生の全部!?」


 誰がカニの味を知らないだけで人生を全損してると思うだろう。

 カニにそれだけの価値が詰まってるとは知らなかった。


「カニさんはねー、生でも焼いてもおいしいけどー、リィリィは茹でたカニさんをそままぱっくんするのが大好きなんだぁー。醤油もポン酢もいいけどー、リィリィはねー、かにみそっ! が一番大好きなんだぁー…………わわわわぁーおっ!」


 『かにみそっ!』と叫んでカニの胴体が前後に真っ二つに割れた。中身は白い身とやや灰色のミソ。さらにつぶつぶの何かが顔を出す。

 それを見るなりリィリィは目を輝かせてぴょんぴょんと飛び上がり、喜び勇んで厨房の周りを1周した。


 どうやらそれはカニの卵だそうで、なかなかお目にかかれない珍味らしい。

 …………正直言って、見た目がちょっとグロテスク。本当にうまいのか、コレ?

 アナスタシアもカニは初めてだそう。味の想像がつかないという。

 しかしリィリィがうきうき気分でカニの身の出来上がりを待つ様子を見ると、おいしいものであることは間違いないようだ。

 マズかったとしても、ここまではしゃぎまくる子供の前で食べないという選択肢は存在しない。

 マズかったとして、マズいと叫ぶ選択肢も当然、存在しない。


 甲羅ごと火にかけると、蒸気と共にかぐわしい磯の香りが漂ってきた。

 家族と何度か海に行ったことがある。海風の香りはこんなんだった気がする。

 5歳くらいだったかなぁ。ちっちゃいカニを捕まえようとして指を挟まれたんだっけ。

 あんまし覚えてないや。小さい頃の記憶だし。


 2人して微妙な顔をしていると、カニの調理を見たマーリンさんが瞳を輝かせて現れる。


「いい匂いがすると思ったらカニを茹でてたのね。胴体の身を貰ってもいいかしら。カニグラタンにしてもいい?」

「カニグラタン! お願いしますっ!」


 リィリィちゃんの目からもキラキラ光線が放たれた。


「オッケー、ありがとう。あら、あらまぁ! おいしそうなカニみそ。しかも卵入りだなんて超贅沢! あとで私にも茹でたカニ足、食べさせて」

「もちろんです。いっぱいあるので食べて下さい!」


 灰色のどろどろした液体。これは本当に旨いのだろうか。

 俺の思考とアナスタシアの思考が重なった。


「カニみそってそんなにおいしいのですか? 卵入りが贅沢ということですが」


 俺はリィリィちゃんに聞こえないよう、マーリンさんの耳元で囁く。


「まぁ味が濃いから好きな人は大好きだし、嫌いな人は大嫌い。両極端な食材ね。少し食べてみたら?」


 勧められてひと掬いしたそれを口に入れる。

 咀嚼して飲み込むと、腹の底から湧き上がるこの想い。なんていうか、その、これはアレだ。酒が欲しい!

 具体的に何かに例えるとするならば、濃厚な海の味。なんともいえない潮の香りが鼻を抜けていく。

 カニみそなるものがこんなにもおいしいのなら、その身はいかほどのものなのか。期待に胸が膨らんで前のめりになってしまう。

 まだなのか。まだ茹で上がらないのだろうか。そればかりを気にしてしまう自分がいる。


 れっつ・いーと・ざ・かに~♪

 れっつ・いーと・ざ・かに~♪

 おっ・いし・いぞ・かに~♪

 (無限リピート)


 嬉しさのあまりリィリィがなんか歌い出した。

 妙に記憶に残る歌だ。カニを見ただけで思い出すに違いない。


 ふっくらと茹で上がった身はほわほわと湯気を上げ、アツアツのミソにダイブしたのち、リィリィの口の中におさめられる。

 もっちゃもっちゃと楽しそうに口を動かしてひと言。


「うみゃいっ!」


 ごくりっ。

 固唾を飲んで俺たちも例に倣い、ぱくり。


「「…………うみゃいっ!」」


 噛めば噛むほど海の旨味と甲殻類独特の甘みが口いっぱいに広がっていく。

 さらに濃厚なカニみそが合わさっておいしさの嵐が押し寄せる。卵のぷちぷち食感もたまらない。止まらない。カニってこんなにうまいんだ。

 知らなかった。

 知ってしまった!


「どうどう? すっごくおいしいでしょ?」


 リィリィはわくわくした目で共感を求める。なんてかわいいんだ。抱きしめたい。


「めちゃくちゃうまい! こんなにおいしいだなんて知らなかった」

「初めて食べたけどすごくおいしい。お酒が欲しい」


 アナスタシアに激しく同意。


「わぁ、カニさんだ。私も食べていいですか?」

「甲羅ごと火にかけるとか面白いことやってんね。あたしにもひと口ちょうだい♪」


 すみれさんとペーシェさんが現れた。

 2人もぱくりして『うみゃい!』のひと言。


「グラタン出来たよ~。カニの身がたっぷり入った贅沢カニグラタン。ホワイトソースとチーズが香ばしい♪」


 マーリンさんもカニに酔う。みんなでグラタンをぱくり。


「「「「「うみゃい!」」」」」


 ぱっかんぱっかん割りまくってカニみそをぐるぐるかき混ぜる。

 寸胴の中がふつふつと沸き立って潮の香りが広がった。

 テンションの上がりまくったリィリィはまるで酔ったように机の間を駆け巡り、勢いのままに歌い出した。


 ハスキーでセクシーなヴォイス。

 かわいらしいウィンクで人々の心を魅了する彼女はまさに歌姫。

 なるほどこれが吸血姫(ヴァンパイア)の名の所以か。

 談笑も料理の音も視線もかっさらって、みんなの心も鷲掴みとは恐れ入る。

 超一級のディナーショーにいるかのような心地よさも、送られる拍手と共に終わり、お腹いっぱいになったリィリィは褒めて褒めてと言わんばかりに俺の足元までやってきた。

 なんてかわいいんだっ!


「リィリィのお歌どうだった? どうだった?」

「すっごく上手だったよ。リィリィは歌がうまいんだな」

「リィリィねー、お歌が大好きなんだよ。みんな上手って誉めてくれて嬉しいの。エデネイお姉ちゃん、リィリィのお願い、1つ聞いて?」

「おお、いいよ。でもお姉ちゃんにできることなんてあるかなぁ?」

「やたぁー。あのねあのね、お姉ちゃんの真っ赤なお角、触ってもいい?」

「え、いいけど……なんで?」

「綺麗でカッコイイからっ!」


 そう言った少女は、物珍しそうに俺の耳の後ろから生えた赤い角を撫で始める。

 綺麗でカッコイイ。そんなことを言われたのは人生で2度目だ。

 今までで生きて来た人生、血の色みたいで気味が悪いだとか、人間のくせに半分魔族みたいで汚らしいだとかと言い放たれてきた。

 両親には『それは貴女の個性だ』と言われてきたけど、褒められた気はしなかった。

 面と向かって綺麗だなんて言われたことが全然なくて調子が狂う。こういう時にはなんて言って返せばいいのだろうか。とりあえずこっちも褒めてみるか?


「リィリィの髪も綺麗だよな。サラサラの金髪ストレート。俺のはちょっと癖っ毛があって、あんまり長くできないんだよ」

「短いの似合ってる。カッコいい。リィリィはねー、吸血鬼なんだー。でも八重歯も伸びないし、血は嫌いだし、陽の光の元には出られるし、ニンニクは好きだし、ホワイトアッシュは効かないしで、みんなから変な目で見られてたんだー。でもね、まおー様とかセチアお姉ちゃんとか、あいちゃんに、もわもわのウルおじちゃんたちに会って、リィリィはリィリィでいいって言われたんだー。まおー様にもお角が生えててね、黒くてくねっとしててちょーカッコいいの! エデネイお姉ちゃんのは真っ赤であったかくてカッコいい。リィリィもお角が欲しいなぁー」

「そんなに褒めてくれたのはリィリィが初めてだよ。ありがとう」


 ひとしきり満足したのか、俺の角をなでなでし終わるとセチアさんの元へ走り、夢の中まで走りぬいていった。寝顔のなんてかわいらしいことか。

 綺麗でカッコいい、か。そんな風に思ったことは一度もないなぁ。


 人と違うものを持っていて、忌み嫌われて、普通になりたくてもなれなくて、マルコにはそのままのエディネイでいいって肯定されて、救われた気持ちになったのを覚えてる。

 リィリィに褒められて凄く嬉しかった。自分自身を肯定するっていうのは、なんていうか自信が湧くもんだ。

 これからはもっと自分を認めていこう。

 頑張れ俺!

 頑張る俺!




~~~おまけ小話『セクシーギャル』~~~


ペーシェ「リィリィちゃんって歌姫なの? 尋常じゃないセクシーボイスなんだけど。というか普段の声色と全然違うけど、どこから声が出てるの」


アルマ「リィリィちゃんはメリアローザでは有名な歌姫です。ディナーショーも行っていて、S席15000ピノもします。販売即日10分で全席完売するスーパースターです」


ペーシェ「マジか。歌も躍りもプロっぽいと思ったらマジもんの歌姫だったとは」


アルマ「将来はボンキュッボンのセクシーギャルになるって頑張ってます」


ペーシェ「…………参考までに聞いてみるんだけど、セクシーギャルになるために何を頑張ってるの?」


アルマ「いっぱい食べていっぱい寝て、いっぱい遊んでます。それから胸を大きくするためにおっぱい体操をしてるみたいですよ。暁さんが教えてました」


ペーシェ「暁さーん、ちょっとお話し聞きたいん


マルコ「ちょっとねーちゃん、話しがあるんだけど」


ペーシェ「邪魔すんなし愚弟。ねーちゃんはセクシーギャルになるんじゃい!」


マルコ「ねーちゃんはそのままのつるぺたボディが一番美しいから。何も変わることなんてないから!」


ペーシェ「うるさいわい。ワンランク上がるだけでお前の鬱陶しい絡みから解放されるんだから恥も外聞もないわい!」


アルマ「ふわぁ~。仲いいんですね」


マルコ「そうだよ!」


ペーシェ「良くない!」

エディネイが主観でした。一人称は『俺』です。

作者は偶然にもリアルの世界で若い女性が自分のことを『おいら』と言っている人を見たことがあります。まさかそんなまさかと思いましたがマジにおいらって言ってました。

色んな人がいるもんだと思いました。きっと地方からこられた方言持ちの方だったんでしょうね。

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