異世界旅行2-2 水晶のように煌めく時を 3
見渡す限りのハーブ園。
朝の冷えた空気が風に乗って体を通り抜ける。
大地の香り。緑の香り。太陽に照らされて温まる空気の香り。
還るべき原初の世界に訪れたような心地にさせる。
空はどこまでも青く、波打つハーブの緑が地平線まで続く。
フラウウィード。
まるで全ての魂が回帰する場所のよう。
振り返るとウッドデッキの家屋が構える。
お土産に、スイーツに、ハーブティー。癒しの全てがここにある。
メリアローザはダンジョン【薔薇の塔】屈指の観光名所。
全体を見渡して、心のままに思ったことを華恋に言った。
「マインドフルネスしたら一日終わってたーーーーってなる環境ーーーー」
「分かります。ぼーっとすると、いつの間にか陽が傾き始めて焦るやーつです」
「めっちゃわかるーーーー」
マジで時間経つの忘れそう。
なんて贅沢な時間の使い方なんだ。現代人には考えられん。
でも今日はそんな心配はいらない。なぜなら朝食は大忙しだからだ。
好きなところに座ってと言われ、あたしは華恋の左隣の席を取る。華恋の隣にはハーブ大好きクラリス・メドラウト。ハーブが好きだからフラウウィードに来たという彼女は今にもハーブの草原に繰り出しそう。
どんなハーブがあるんだろう。
ハーブを使ったスイーツがあるのだろうか。
恋する乙女の彼女は見ていて微笑ましく思える。と、同時に、あたしにも彼女のような乙女な自分がいたのだろうかと思い返してしまう。
よし、考えたくなくて考えなくても問題ないことは考えないようにしよう!
あたしの左隣にはシャングリラより、ラクシュミーちゃん。その隣はバル経営者のラム・ラプラス。
すみれシェアハウスのホームパーティーで出会った2人は大の仲良し。果物大好きなラクシュは、フルーツティーを作ってくれるラムのことが大好き。
それにしても、シャングリラの子供たちはみんなかっこかわいい。なかでもラクシュは飛び抜けてかわいい。既に綺麗かわいい系の片鱗が浮き出てる。将来は絶世の美女になるだろうことは想像に難くない。
シャングリラの子供たちはみんないい子。そしてあたしもラムと同じく、お姉さん風を吹かせたいのでラクシュにアピールしていきたいと思います。
ひとまず、朝食が出てくる前のハーブティーをいただきます。
「アップルミント。カモミール。ラベンダー。レモンバーム。ダマスクローズ。マリーゴールド。ハーブの群生地ってことだけど、メニューに記載してる全部、フラウウィードで採取したハーブなの?」
「そうなんです。本当にいろんなハーブが群生していて、少し離れた場所では山の恵みもあるんですよ。あけびとか、クルミとか、フラウウィードは自然の恵みが盛りだくさんなんです」
「それはすごいな。ちなみに、華恋のおすすめはある?」
「そうですね、紅茶でほっとひと息するだけならローズシロップを使ったカップなんですけど、スイーツを食べる前なのでレモンバームなんていかがでしょう。さっぱりしたいなら清涼感のあるミントティーもおすすめです」
「なるほど、よし、あたしはレモンバームにしよう。クラリスは決まった?」
隣で華恋の話しを聞いたクラリスに話しを振る。すると、自分に声をかけられると思ってなかったのか、驚いた様子であわてふためく。
「えっ!? あ、ええと、私はローズシロップの紅茶が飲んでみたいです。甘いの、好きなので」
嬉しそうに照れる姿がかわいらしい。これまでいったいどれだけの男をその笑顔でたぶらかしてきたのか。
せっかくなのでからかってやろう。
「片思いの相手がいるってことだけど、どんな人なの?」




