異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 55
シェリーさんの本気の抱擁が全身を包む。
はちみつと聞いて、クレアちゃんが興味深そうにわたしたちを見た。
どうやら彼女もはちみつに興味があるみたい。だよね。そうだよね!
「クレアちゃんもはちみつに興味ある?」
聞くと、満面の笑みを作って飛び跳ねる。
「うんっ! はちみつ大好き! でも蜂さんには針があって、子供は危ないから近づいちゃいけないの。シャングリラでも養蜂はやってるけど、お手伝いはできないんだ」
「そうだよね。針が刺さったら危ないもんね」
だけれども、大人がやることに子供は興味を持つ。
彼女も養蜂に興味がある。養蜂全てでなくとも、はちみつ採取の体験くらいはできないだろうか。
暁さんに聞いてみよう。
「暁さん、コピアのはちみつはどのように採取されるのでしょうか?」
「日よけの笠に蜂が近寄らないようにするためのインスタントマジックを仕込むんだ。くわえて、魔法で一時的に蜂たちを空の巣箱に誘導、隔離しておく。その隙にはちみつを採取する手法を採用してる。専用の笠と巣箱の用意さえあれば、子供たちでも安全にはちみつの採取ができるよ」
「な、なんて素晴らしい! これが魔法技術の発達したメリアローザ。簡潔で安全なはちみつ採取ができるなんて素敵!」
「うぅむ、あたしたちとしては普通のことなんだが、グレンツェンではどうやって採取してるの?」
「防護服を着て、重箱の一段目の巣板を引っこ抜いて採取します」
「そうなのか。思いのほか力業なんだな」
「力業…………」
これが異世界間ギャップというやつなのか。わたしたちの中ではこれが一般的なんだけどなぁ。
ともあれ、異世界間交流が始まった時には魔法技術を用いたはちみつ採取の手法を取り入れられるか打診してみよう。
クレアちゃんはわたしたちの会話を聞いて、暁さんにお願いをする。
「つまり、クレアたちでもはちみつを採取できるの?」
「そういうことだ。エレニツィカに頼んでみるとしよう。この時期なら必ずはちみつ採取に参加するはずだ」
「おぉーっ! やったー!」
新しい体験ができると知って、クレアちゃんは満面の笑みになる。ほかの子供たちも、大人にしかできない仕事ができると聞いて大喜び。
バニラウォーターも底をついた。そうとなれば明日の朝を万全に過ごすために早く寝よう。
子供たちはハティさんを急かして用意された大広間へと走り出す。手を引かれ、背中を押されるハティさんは本当に楽しそう。
たくさんの笑顔に囲まれる。
なんて素敵な景色だろう。
わたしもいつか、彼女のようになりたいな。




