異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 54
わたしもニオイスミレのアロマオイル入りバニラウォーターを飲む。
懐かしい。修道院やパスタンの屋上で身にまとう香りと同じ。優しい甘さが特徴のニオイスミレで作ったはちみつは特別においしいのだ。
「はっ! ここにはちみつを入れたら、もっとおいしくなるのではっ!?」
「それなっ!」
同意したのはわたしと同じ経験をしたシェリーさん。
「ダンジョンでも養蜂をやってて、そこのは水のようにさらさらとしたはちみつなんだ。水に混ざりやすいから料理に使いやすい」
「水のようにさらさらするはちみつ!? それはとても興味あります!」
だけどダンジョンの中。ということは、暁さんの許可が必要ということ。
暁さんをロックオン!
「はちみつだけが目当てなら、わざわざダンジョンを登らなくてもいいでしょう。ちょうどはちみつ採取の最盛期なので、注文すればすぐにでも手に入りますよ」
ダンジョンにはモンスターがいる。客人を危険な目に遭わせることはできない。
暁さんの配慮はわかる。だけど、できればしぼりたての非加熱はちみつを味わいたいっ!
「そこをなんとか。お願いしますっ!」
「う~ん……モンスターが出る以前に、シェリーさんには前科がありますからね」
「ウッ!」
「えっ!?」
ライラさんの詭弁に乗っかって、シェリーさんもモンスター狩りに出かけたらしい。本来なら、シェリーさんも出禁である。だけど異世界間交流があるから恩赦を出したそうだ。
珍しい。君子危うきに近寄らないシェリーさんが、そんな無茶をするなんて。彼女をそうさせるほどに、魔剣という武器は素晴らしいもののようだ。
でも今ははちみつ!
養蜂場の見学がしたいっ!
生はちみつが食べたいっ!
わたしの情熱を見つけたのか、インヴィディアさんとクラリスさんが助け舟を出してくれた。
「それなら私が一緒に行きましょうか。私ならたいていのことはなんとでもできるわ♪」
黒を白にできる人が現れた!
隣のクラリスさんもはちみつに興味津々。
「私も生はちみつを入れたフラワーティーに興味があります。ハーブ園にも興味あります。もっともっと、メリアローザのことが知りたいですっ!」
暁さんはインヴィディアさんが同伴するならと首を縦に振る。
「インヴィディアさんが同伴してくださるなら安心ですね。明日は早朝、フラウウィードで朝食ののち、希望する人はその足でコピアのはちみつ採取体験ができるように話しを通しておきましょう。ただし、シェリーさんは却下です」
「なんでっ!?」
「異世界間交流の担当者だから出禁にしなかっただけで、本来なら出禁対象ですから。はちみつに特別の思い入れがあるのは存じておりますが、ご自重ください」
「ぐっ……すまない…………」
「安心してください。採取させてもらったはちみつを持って帰ってきますから!」
「ベレッタ、ありがとうっ!」




