異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 52
火照った体を冷やすため、二階の広間へ赴く。テラス席をあけっぴろにすれば夜風が吹き抜けて涼しいと評判。畳は通気性がよく、横になると冷たくて心地よいのだという。
だからだろうか。シャングリラの子供たちがこぞってうつ伏せになって寝てる。
おねむの時間なのだろうか。
否、これは――――――
「ごめんなさい。お風呂上りに甘い飲み物がないみたいで、はぶててしまって畳の部屋を占拠してしまいました」
エリストリアさんがどうしたものかとわたわたした。
まさかのクーデターである。占拠しようとしたわりには隙間がたくさんある。だけどそんなことなど気にしない。とにかく、メリアローザの露天風呂に入ったあとは甘い飲み物。彼らはささやかな幸せを楽しみにする。
だというのに、悲しきかな、期待は裏切られてしまった。
運悪く在庫が切れたタイミングでの来訪。これはなんとかしなくては!
肝心のハティさんはどうすればいいか分からなくてパニック。パニックになって一周回って思考停止。
エリストリアさんとメアリさんは大人の事情を振りかざすも、子供たちにとっては暴力でしかない。余計に意固地になるだけ。
オリヴィアさんは悩んだ末、悩みすぎて夢の中。まるで役立たず。
立ち尽くす我々の前に、冷蔵室から出てきた番頭の紫が暁さんに相談する。
「どうしたもんでしょう。明日がちょうど冷蔵室の掃除なんで、飲み物の用意がなかったんですよ」
「困ったな。食堂の冷蔵室を漁ってみるか。朝食に使うジャムくらいならあるだろ」
「牛乳もあれば混ぜて使いますか」
だが現実は非情也。
ジャムはあれど牛乳がない。ちょうど全部使い切ってしまったらしい。
期待を寄せ、うつ伏せになりながらも大人たちの様子をうかがった子供たちは愕然として立ち尽くす。もとい、つっぷして動こうとしない。
あと、何人かからは寝息が聞こえた。
このまま自然に寝入るのを待つか。いや、それは逃げだ。逃げてはいけない。根本的な解決にならない。
どうすれば彼らの心を満足させられるか。なにかいいアイデアはないものか。
過去を反芻すると答えはすぐに見つかった。
ティーパーティーの時、セチアさんが譲ってくれたバニラビーンズ。あれを使えばいいじゃないか。そうすれば甘い飲み物ができあがる。
それだけだと少しつまらないな。そうだ、アロマオイルを使えばいいじゃないか。
あるだけのアロマオイルでフラワーアロマティーを作るんだ。
バニラウォーターをベースに、好きなアロマオイルで香りと味を楽しむ。これはきっと楽しいに違いない。
そうと決まれば暁さんとヘラさんに相談だっ!
「――――ということなんですけど、いかがでしょう。セチアさんからと、お土産屋さんで買ったアロマオイルがあるので、素敵なティータイムができると思うんです」
伝えると、暁さんもヘラさんも大賛成。
素早く準備にとりかかる。
紫が冷水を汲みに行く間に子供たちを覚醒させよう。
ライブラからバニラビーンズを取り出して、ラクシュミーちゃんに声を掛ける。
それにしても、なんて愛らしい不貞腐れ方をするんだ。うつ伏せで大の字になる少年少女の姿は天真爛漫そのもの。さて、彼女たちの仏頂面を笑顔に変えるといたしましょう♪




