異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 51
先に入ったシャングリラの子供たちがお風呂から上がったところで温泉卵と熱燗が渡される。
夜空を眺めながら、半熟卵とお酒を飲むのが粋なのだそう。
温泉の中に設えられたテーブルと岩椅子に腰かけて、温泉卵をつるり。お猪口を傾けて月夜にかざす。
なんという至福!
贅沢ここに極まれりっ!
お酒大好きなラムさんのテンションがすごい。
バーテンダーの彼女はお酒を飲む空間づくりにも気を遣う。だから温泉に入って素っ裸で、夜空を眺めて大勢の仲間と飲む酒の旨さに酔いしれた。
「こんなお酒の飲み方があったとは! これはたまらないねっ! 半熟卵が熱燗に合う。硫黄の匂いに囲まれて飲む酒ってどうなんだろうって思ったけど、案外気にならないもんだね」
異世界二度目のシェリーさんがラムさんに微笑みかける。
「温泉に浸かって飲む月見酒は格別なんだ。月見酒と言えば、アルカンレティアで見た天の川は圧巻だったな。ルクスの作るカクテルも格別で、ぜひともまた会いたいものだ」
シェリーさんの希望に暁さんが残念そうに答えた。
「それなんですが、ルクスはしばらく家族旅行ということで、メリアローザを留守にしてるんですよ。みなさんがお越しになるのでルクスに料理を依頼しようと思ったんですが、タイミングが悪かったですね」
「そうなのか。それはとても残念だな。今度来た時は料理とお酒を堪能したいと思ったんだが」
ルクスアキナさんの料理とお酒。それはわたしも興味ある。後夜祭で作ってくれたお酒も料理も本当においしかった。できることなら学びたい。
ルクスアキナさんが不在で残念なのはシェリーさんだけじゃない。すみれも、レーレィさんも肩を落とした。
「ルクスさんは家族旅行なんですよね。グリムさんがおっしゃってました。秋はお野菜がおいしい季節なので、色々と勉強したかったです」
「グリムも誘ったんだけど家族旅行なのよね。タイミングが悪かっ……あれ? ということは、もしかしてグリムって?」
レーレィさんの疑問に続いて、ニャニャとリリィが小首をかしげる。
「ん? たしかグリムさんとルクスアキナさんって、フィーアさんと姉妹です? ということは、もしかして、フィーアさんも?」
「異世界人!?」
リリィの驚きの横でシャルロッテ姫が言葉を足す。
「ちなみに、わたくしの侍女のソフィアもクレール姉妹です。つまり、そういうことだそうですよ?」
言われてみればそうだ。ルクスアキナさんが異世界人なら、その姉妹も異世界人である。
どうして気づかなかったんだろう。ハティさんの『細かいことが気にならなくなる』極大魔法のせいだろうか。改めてみて本当に底が知れない人だ。
でもまぁ、ルクスアキナさんもグリムさんも、フィーアさんもソフィアさんも本当にいい人だから問題ないや。
結局、みんなそれで納得した。もしかすると、ハティさんの魔法の余韻が残ってるのかも。観測する術がないから分からない。分からなくてもいいことなので、気にしないでおこう。




