異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 50
露天風呂にやってきた。石畳と岩が並ぶ。温泉独特の香りと湯気が体にまとわりつく。
倭国の旅行パンフレットで見たことがある。アルマちゃんたちがシェアハウスする家のお風呂を巨大にしたような景色に心が躍る。
が、知ってる人たちばかりとはいえ、野外で素っ裸は緊張するというか、恥ずかしいというか、文化が違いすぎてたじろいでしまう。
スタイルも気になる。恥ずかしいお腹周りはしてないはずだけど、他人からどう思われるか気になって仕方ない。
アルマちゃんはどうだろう。
なんの疑問もなく素っ裸で野外に出た!
マジか。
行くしかないか。
ここは義姉の後ろをついていこう。
「2ケ月前の自分を見てるようだ。安心しろ。慣れればどうってことなくなる」
「慣れれば……」
「郷に入りては郷に従え、だ。どうしても無理なら、体を拭くだけにするか?」
「い、いいえ、ここまで来たら入ります。がんばりますっ!」
「無理して頑張る必要もないんだが。まぁ何事も経験だ」
シェリーさんに励ましてもらって、いざ出陣。
アルマちゃんたちに倣い、体を洗って髪を洗って湯舟に浸かる。
体全体に温泉の心地よい圧力がかかった。肩まで温水に浸けるなんて経験がない。海で泳いだのと似てるかもだけど、海水と温泉水では雰囲気が全然違う。
はふーっ。
なんて心地いいのだろう。
グレンツェンには公衆浴場はない。あっても民営の個室のスチームバスだけ。そもそも、修道院暮らしのわたしたちがそんなところに行けるはずもない。
広大な湯舟にたっぷりのお湯を張るだなんて、とんでもない贅沢である。
せっかくだから、旅行中くらいは贅沢な体験をしたってバチは当たらないよね。
ため息交じりに星を見上げる。と、隣にライラさんがやってきた。
ここでアルマちゃんがひと言。
「まだ帰ってなかったんですか?」
「用事が済んだら帰る予定だったんだけど、ハティが明日の朝に出立するってことで、私も滞在確定になっちゃったんだ。というかそもそも、私は出禁食らってるから、メリアローザに来る予定はなかったんだが」
「だが?」
アルマちゃんがライラさんに聞き返すと、彼女はハティさんのほうを見て首まで湯舟に浸けた。
「近いうちにハティ経由で暁に伝言を頼む、と。手紙にして詳細を書くから、と。そう電話で伝えたんだが、『分かった』とだけ言って、気づいたらメリアローザに連れてこられたんだ。連れてきてもらって悪いんだが、もう少し人の話しを聞いてほしい」
「ああ……そういう経緯でメリアローザに来たんですね。てっきり出禁のことを忘れてたのかと」
「さすがに忘れんわ。なんなら昨日のことのように思い出せる」
楽観的なライラさんが珍しく表情をこわばらせた。出禁宣告された時に相当怒られたらしい。当然と言えば当然だけど。
「そういうわけで、明日の朝までハティたちと行動するよ。明日が休みでよかったー」
「それはいいですけど、ご家族は大丈夫ですか?」
「それなんだけど、ハティが魔法で異世界間のホットラインを作ってくれたから連絡はできた。マジでなんでもアリすぎるだろ」
「そこがハティさんのすごいところじゃないですかっ!」
アルマちゃんのハティさんへの尊敬が眩しい。
わたしも彼女くらいの魔法使いになれたら、多くの人々の尊敬を集められるだろうか。
そのためには、なにはともあれ魔力量の拡張と練度の向上。日々精進ですっ!




